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第15回レポート
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第15回リーフレット

第15回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  平林久(ひらばやし・ひさし)
日時:  2007年9月8日



異端児のみる生命 「宇宙の生命」 BACK

M:平林先生にお尋ねします.今年の始め頃、名古屋大学のグループが、重力レンズを使って惑星の探査を始めたと、新聞に書いてありました.重力レンズを使えば、地球型に近いものが検出されるとのことでしたが、どうなのでしょうか.

平林:太陽系の外にある惑星を見つける方法はいくつかあります.重力レンズを利用する方法は、名古屋大学を含めて、MOA(Microlensing Observations in Astrophysics)というプロジェクトで行われていて、すでに、地球より5倍程度大きい惑星が見つかっています.

中性子の星、パルサーというのをご存知ですか.パルサーというのは、非常に精密な周期のパルスを送ってくるのでその名が付いたのですが、このパルスを調べるだけで、例の室伏流と同じように、そこに惑星があるということが分かるのです.あるパルサーでは、地球と同じ、ないしは、地球より軽い惑星が見つかっています.技術的に、地球と同じ重さのものを探すことができるのは、このパルサーのようなものだけです.

M:重力レンズのほうは、お呼びではありませんか.

平林:重力レンズのほうも、割とお呼びです(笑).惑星を見つけただけではつまりませんが、すでに、見つかった惑星に大気があること、大気にどのような元素があるかということが分かり始めています.恒星の周りを回る惑星の軌道面が観測しているほうに向いている場合が、100個に1個くらいあるわけですが、惑星が恒星の前を通過するときに、恒星の影を隠します.惑星に大気があったとすれば、この時に恒星の光を吸収したりします.この微妙な違いを調べるわけです.これは、バッブル宇宙望遠鏡で観測しています.そういう観測は、もう数年前に始まっていますが、これから、10年、20年という新しい計画のなかでは、その星を直接見るということを考えています.今までは間接的に見ていたのですが、それは、星の光が眩しくてうまく見えなかったからです.そこで、何とか上手く望遠鏡を設計して、惑星だけを際立たせることはできないかと.コロナグラフと赤外線を使うと、惑星だけが浮き上がって見えます.いずれ、そうした計画ができてきますから、惑星の上にある大気のことは、もっと正確に分かると思います.

M:その大気に含まれているものは、すでに何か分かっているのですか.

平林:2原子分子程度ではなかったかと思いますが(ケイ酸塩).

Y:お二人の先生にお尋ねします.もし、生き物なり知的信号なりが見つかったとき、最初に何をしたいと思われますか.また、今、どういうお気持ちで研究をされているのでしょうか.

平林:生き物が太陽系かどこかで見つかった場合には、私は「あぁ、良かったなぁ」と驚いて、後は大島先生や生物学者にお任せします.それだけです(笑).知的な信号だとすると、そこからいろいろなことが探り出されますよね.それを見せてもらうのは、楽しいだろうなぁと思います.

ただ一方では、知的信号はみつからないほうがいいかなと思うときもあります.余りにもすごい情報ですから、みんなが解析して、とんでもないことが分かってしまうのではないかとか、自分たちでゆっくり調べていく楽しみを奪われてしまうのではないか(笑)と心配になります.

三井:大島さんの「逃げ」の得意技のお株を取られたような・・・.

大島:生命が見つかったとき、一番先に調べたいのは、アミノ酸の右手型と左手型のどちらを使っているかということですね.宇宙全体では対象なのか、それとも生き物は全部地球型なのかを知りたいと思います.

文明が見つかったときは、平林先生と同じで、ちょっと怖いと思いますね.我々が鎖国をしていたときに、黒船が来て、日本古来の文明が消えたということもあるので、相手の話を聞くより前に、地球文明を守ることを考えなくてはいけないかもしれない.真面目に言えば、向こうの文明にも、食料だの環境だのといった危機があったのかどうか、また、そのような危機をどのように乗り越えてきたかということを聞きたいと思いますが、どのみち、みんな来ないと思っているから(笑).

S:宇宙空間に有機物があるとか、隕石の中にアミノ酸があるとか、地球ができてまもなく生物が発生したということから考えると、宇宙空間に生命の種のようなものが漂っていて、環境さえ良ければ、そこに生命が発達し進化してきたという考えは、あり得るのではないでしょうか.地球外生命が地球の生命の元になったという考えなのですが.

平林:私は、宇宙空間にあったものが、地球の生き物とは全く関わりがないのではないかと思っています.太陽系を取り巻く地球のような惑星は、今でも残っている微惑星のようなものが集まっていって、初期にはみんなが解け合っていって地球のような惑星になる.ぶつかり合いますから、どんどん熱くなる.そこからいろいろな環境変化が起こってくるわけです.そういう海の中で、あるいは湖の中で、必ずやいろいろな有機物ができるのではないか.1953年に始められた有名なミラーの実験は、多少過程は違うかもしれませんが、そういうところで、いとも簡単にいろいろなモノができるということを示しています.宇宙には何かあるとしても、地球で十分にそれができるのではないか.だから、生き物の元になっているのは地球そのものではないかというような感じがするのです.

大島:全くそのとおりです.答を知っているわけではありませんが.

M:生命が何かというのを定義するのは非常に難しいと思いますが、宇宙に生命がいるかという研究をしている以上、これは生命と見なすというような条件があるのではないでしょうか.

大島:中学校や高等学校時代に、生物の授業を受けても、生物の定義なんて聞いたことがないと思います.これは恐ろしいことですが、生物学者は定義無しでやるんです(笑).逆に、数学は先ず定義から始まりますね.そのかわり、その定義が現実の世界といかに狂っていようとも、数学としては価値があるわけです.逆に、これまでの伝統的な生物学では、この世にありもしない生物のことをいくら研究しても価値は認めてもらえません.だから、どこか他所の星にいるであろう生物のことは生物学の対象にならないのです.

生物の定義は何もありませんが、どうしてもと言われたら、私は次の三つの条件をクリアすることだと思っています.一つは、子孫を残すことです.それ一つで十分じゃないかと言う方もいますが、自触媒反応というのがあって、自分と同じ分子を触媒する反応が知られていますから、それだけですと、鉄の錆みたいなものも生命に入ってしまいます.二つ目は、代謝です.すなわち、外の世界から食べ物を取り込んで、自分自身の目的のために、エネルギー変換をする、エネルギーの変換装置だということですね.以上の二つでいいのかもしれませんが、その二つに付随してくるのは、自分と外界を仕切る仕切りをもっていること.その三つの条件があれば、生物といってもよいと思っています.宇宙でその条件を満たしているかどうかを調べるのは、ものすごく厳しいことになりますが.

平林:天文学は、科学の原点のような役割をしているところがありますね.科学が進歩していくに従って、逆に、定義が分からなくなっていくということが、最近、太陽系の惑星にもありました.分からなくなるというより、もっと複雑な要素が分かってくるという例ではないでしょうか.

今日、この会に来る途中、とても怯えた気持ちだったので(笑)、電車の中で思考実験をしてきました.生物の定義という話はでるに違いないと思いましたが、生物学者は、常に、「生物の定義はとても難しい」と仰っているので、「神様」を定義してみようとしたのですが、よく分かりませんでした.生き物の定義は本当に難しそうだなぁというコメントです.(笑)

三井:アイゲン(Manfred Eigen, 1927〜)という物理学者は、生命の定義をするなんて無理だと言っていますね.

M:それらしき現象が見つかったら、改めて定義をつくるというような状況なのでしょうか.

平林:自然科学というのは、そういうものではないでしょうか.

三井:では、「異端児」ということを最初に仰った大島さんにお話をうかがいましょうか.

大島:「異端児」というのを気にされている方が多いようですが、決して皆さんのことを言っているわけではなくて、自分のことです.今も言いましたが、生物学は、「生命とは何か」という命題を研究の対象にはしてはいません.そういう原理的なことは、これまで研究できなかったという歴史もありますが、今でも、その歴史が根強く残っています.このようなサイエンスカフェで「生命」を採り上げるとしたら、多くの方は、遺伝子操作や、クローン動物や、生活習慣病などの話題を期待すると思いますが、私は、そういうことにあまり関心がありません.その言い訳で、「異端児」というタイトルを付けたのですが、こんなに大勢の方に興味をもって頂けるとは思いませんでした.どうも有り難うございます.

三井:私は、生命などを扱うときに常識のようなものは捨てたほうがいいという主旨だと解釈していました.その時代の科学的常識に振り回されていると、本当のことを見誤る恐れがあると思いますから.

大島:そこまで大それたことは考えていません.

三井:異端児について、納得して頂けましたか.時間も大分過ぎてしまいましたので、今日はここでお終いにします.有り難うございました.(拍手)

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Last modified 2007.11.20 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.