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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
平林久(ひらばやし・ひさし) |
日時: |
2007年9月8日 |
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異端児のみる生命 「宇宙の生命」 |
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平林:皆さんは、「ダークマター」あるいは「暗黒物質」というのをお聞きになったことがありますね.「ダークエネルギー」という言葉もご存知だと思います.エネルギーも質量も、重さの単位に焼き直して、割合で何%という言い方をしています.私たちの認識できるモノが僅か4%というのは、そういう量です.要するに、今は、科学がもの凄く進んだ結果、宇宙について、こんなに分かっていないということが分かった不思議な時なのです.宇宙物理の革命前夜と言えるかもしれません.
私たちは、物質の世界のことは、ある程度分かっていると思っていても、その物質がどういうふうに相互作用して、どういうことを織りなしているかという、複雑な現象の世界については、よく分かっていませんね.生き物もそうではありませんか.基本的な物理法則に従う物質のことが分かっても、他の星でどのような生き物ができてくるかは、何とも言えません.地球のような星は、偶々一つかもしれませんし、割と普遍的なものの一つかもしれませんが、私たちは一つの例しか知りません.二つあれば、平均値とか、分散みたいなものが分かり始めますね.そうすると、最も前向きな考えというのは、一つしかないけれど、これが平均値ではなかろうかとか、あるいは、平均値から多少ずれているであろうというような考えになるのだろうと思います.
大島:先程の質問は、炭素中心の生物だけを考えていては片手落ちではないかということでしょうから、それはその通りだと思います.ただ、私の、星の数程あるのだから、あまり変わったのは相手にしなくてよいという哲学を多少ともサポートする研究結果があるのです.遠い世界の物質が、電波望遠鏡で星間物質として見られるようになりましたが、多原子分子では、圧倒的に炭素の化合物が多いですね.検出の手段としてマイクロ波を使うせいかもしれませんし、炭素のような4価ではない原子は元々できにくいということがあるのかもしれません.とにかく、星間分子のなかでは炭素の化合物が非常に豊富なので、他の分子は相手にしなくていいというふうに思うのです.ただ、非常に不思議なことがあって、星間分子は、多重結合、すなわち、二重結合や三重結合をもった化合物が多くて、それはどうしてだか分かりません.
平林:野辺山にできた電波望遠鏡のなかで、直径が45メートルの望遠鏡が、星間分子を見つけるために非常に良い仕事をしました.海部さん達のグループです.宇宙空間に、今仰ったような炭素を主軸にしたようなものが、たくさん見つかっています.メチルアルコールも、エチルアルコールも見つかっています.宇宙にあるエチルアルコールの量は莫大なんです(ホォーという声).だけど、密度はものすごく小さいですよ.それから、猛毒のシアンもたくさんあります.アミノ酸は、今はまだ見つかっていないという立場ですが、一番簡単なアミノ酸であるグリシンは、みなさんが期待していますね.そういうたくさんの有機物を見ていると、宇宙は、どことなく生き物にやさしいのかなという感じがするのです.ただ、優しい感じがするということと、それが生き物を作る構成要素になるということとは、全く別の問題だと思っていますけどね.
炭素の生き物というと、当然、同じ4価であるケイ素の生き物はどうかという話になってくるかと思います.野辺山で、海部さん達と一緒に頑張っていた鈴木博子さんという優秀な研究者がいました.大事な同僚だったのですが、突然の交通事故で亡くなってしまいました.彼女は、たくさんの星間分子を見つけましたが、あるとき、星間分子のリストのなかに、SiH4という分子式を書いてきました.そこで、「SiH4って何?」と聞いたら、京都出身の彼女が、京都弁で、「シランよ!」(笑).本当にそれが見つかったのか見つからなかったのかは覚えていないのですが、本当の話です.
X:非常に密度の高い状態でカーボンがあったとき、多重結合のものができやすいということは理解できる感じがします.
平林:その多重結合も、炭素が11個も直線状に並んでいるという、地球上ではとても非常識なものです.私は、納得できるような説明を聞いたことがありません.
X:たぶん、光の波長の影響もあると思います.
三井:だんだん、お話が難しくなってきましたが、元素に関して、同じような質問を出しておられる方がいらっしゃいます.
H:私は文系で、単なる科学好きです.生命に必要なものは、C、H、O、Nだと思いますが、それだけで生命体が維持されているというのは、納得のいかないところがあります.他の元素は、生命としては異端なのでしょうか(笑).
大島:炭素の化合物というのは、やはり生命をつくるのに向いている性質があると思います.我々の身体は、機械と違って、身体の材料を作ったり壊したりして、代謝回転しています.そのとき、炭素化合物は、酸素があるところでは二酸化炭素になります.私たちが吐き出した二酸化炭素は、やがて海までいって、光合成によって再び生物体となり、魚になって戻ってきてくれるわけですね.これをケイ素でやると砂になってしまうものですから、誰かが運ばないといけない.そういう不都合な点がたくさんあります.そもそも、同じ4本の結合の手があるといっても、炭素と炭素の結合は安定ですが、ケイ素の結合では余り長いものを作ることはできないという問題がありますから、炭素は有利だと思います.
結局、我々の身体というのは、宇宙的に見ると、そこらにいくらでもあるガラクタで作られていると考えたほうが早いのではないかと思います.自然がやるかどうかは別にして、特別に選り抜かれた優れた元素を集めて機械を作るという可能性はありますが、少なくとも我々はガラクタで作られていて、できれば、ガラクタだけを相手にしていたいという感じです.
平林:ここに座って、真っ正面から大島先生のお顔を眺めていると、ガラクタでできているとは到底思えません(笑).
Y:「生命の起源」をテーマにした前回のカフェ・デ・サイエンスで、「生と死にはハッキリとした境目はない」と、大島先生は仰いました.そこで、「イカからスルメにはなるけれど、スルメからイカにはならないのではないか」と迫ったのですが、納得のいくようなお答は得られませんでした(笑).結局のところ、死んで元素になって、それがまた命になって戻ってくるという意味で、生と死には境目がないと仰ったのでしょうか.仏教の輪廻のような(笑).
大島:そういうつもりではありません.微生物のような下等な生物のレベルだと、既にスルメを戻せるのです.私のバックグラウンドはケミストリーですから、生物の人よりも楽観論があるかもしれませんが、私どもには、「大腸菌でできることは象でもできる」という信念があるのです.それでいくと、技術が追いつくかどうかは別にして、微生物でできることは、高等生物でもできるはずだと思っています.稚魚の餌にするブラウン・シュリンプというのは乾燥状態ですが、これは立派に動物です.肉眼でぎりぎり見えるくらいの大きさですが、それはちゃんと生き返らせることができます.だから、スルメからイカへは戻せるはずなんです.(笑)
三井:これは、この場で納得して頂けそうにないので、ここで止めます.
H:大学生です.前回、地球外から降ってくるアミノ酸があるというお話を聞きました.小さな隕石が外から降ってくるということは、その元になる大きな惑星もあるわけですね.同じように、小さなアミノ酸が降ってくるのなら、それの元になる大きなタンパク質も、生命体もあるのではないかと思うのですが.
大島:隕石の中にアミノ酸はあります.それは、炭素の化合物が、この宇宙に普遍的にあるということの証拠の一つでもあって、生命に関係した炭素の化合物はかなり広く分布していると言っていいと思います.ただし、材料があるから必ず生命があるとは言えません.学問の側から言いますと、生命に関係した物質があれば、それを、地球上の生物を構成している物質と比べることによって比較研究ができる.そういう意味では、他所の星にあるアミノ酸は非常に良い手懸りを与えてくれます.たとえば、宇宙にあるアミノ酸は右手型と左手型の区別がありません.だから、地球の生物が生まれてくるどこかの段階で選択が起こったということが分かります.
M:バイオテクノロジーをやっています.先ず、大島先生にお尋ねします.火星の水の探査の次に、生命の証拠になるようなものを探査することになるわけですね.先のバイキングでは、代謝中のATPの検出だったと思いますが、今度、いよいよ最先端技術が導入されたとき、近未来に探査されるべきアイテムとして、どのようなものを考えておられるのでしょうか.
大島:結局、生き物を見つけるのは非常に難しいですね.目で生き物を見てしまえばいいということで、たとえば微生物でしたら、顕微鏡をもっていって調べるということになりますが、砂漠の砂のように生物の頭数が少ないサンプルを顕微鏡で見ても、すぐに見つかるかどうか分かりません.たとえば、奥多摩辺にはウサギがいるはずですが、ほとんどの方は見たことがない.しかし、居ることは分かります.それは糞が見つかるからですね.ウサギは1頭しかいなくても、糞はあっちこっちにある.同じように、火星の生物を探すときには、生物の身体の中にある酵素のような物質を探した方がいいというのが、私の個人的な考えです.
M:二酸化炭素はどうですか.
大島:二酸化炭素では、非生物的なものとゴチャゴチャになってしまいますから、ある程度、生物に固有の物質を探すほうがいいと思います.
M:ポリマーはどうですか.
大島:一つの考えとしてあると思います.
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