パネルディスカッション |
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[スライド 1(岡本)]
[スライド 2(岡本)]
[スライド 3(岡本)]
[スライド 4(岡本)]
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西村:
ありがとうございます。それでは岡本さん、お願いします。
岡本:
大阪府立大学の岡本です。環境分野で衛星搭載のレーダ、雨を測るレーダの開発ということで今回の武田賞を受賞したわけです。私はテクノアントレプレナーシップということはあまりよくわからないのですけれども、たぶん知的な単に好奇心で終わるだけの研究ではなくて、一般ユーザと言いますか、国民の役に立つことの研究につながらないといけない、ということが、今回の武田賞の受賞につながったのではないかと思います。事前のお話では、将来のために若い方が夢を持つには、どういう風にすればいいのか、というようなことも含めてお話し願いたいということでしたので、主に後の方になるかもしれませんけれどもそういうものを用意してきました。
スライド1を使います。知的なノレッジの獲得を通して人々の役に立つような価値を創るということが、たぶんこの武田賞の目的だと思うわけですけれども、私は環境の分野ですから、消費者のセレクションというのはなかなかわからないわけです。発光ダイオードだったらより大きな出力が出るものを当然消費者は選ぶわけです。環境に関してそのセレクションの基準ということはなかなかわからないわけです。やはり最初のテーマの決め方が、人の役にたつだろうという漠然としたところからしか私も出発できなかったわけです。そういうところから出発してきたわけですけれども、テーマの選択はやっぱり大事じゃないかと思います。たぶんかなり運不運、ラッキーアンラッキーに左右されると思いますけれども、アバウトでいいけれども、それをやればたぶん人の役に立つだろうと、そういうセレクションがまず大事じゃないかと私は思います。
私が始めた頃は、台風に伴う雨の観測ということは自然災害ですから、レーダで衛星から雨を測ってデータを公開していけば、災害防止にも役に立つだろうし、天気予報にも役に立つだろうと、そういう軽い気持ちでレーダの開発を始めたわけです。そういう風にやっていきますと二番目に書きました、Communication with Other Communityと書いてありますが、他の業界との対話、これが否応なしに出てくるわけです。私はもともとは物理ですが、電気工学のことを通信総研に入ってから少し勉強して、そういう視点でレーダの開発を見ていたわけです。気象学というまったく違う分野の人とコミュニケーションを持つと、研究テーマの目的そのものが大きく広がっていくということを、実際にTRMMを通して経験してきました。何かと言いますと、災害防災、それは非常に重要な目的であるのですが、同時に雨というのが地球環境に非常に大きな影響を与えているということを、気象学のコミュニティの方が指摘してくれたわけです。午前中の畚野さんの話にもありましたけれども、雨が地球規模の気象変動に大きな役割を果たしています。スライド2のように、雨は蒸発するときに潜熱を奪い、上空で凝縮するときに潜熱を大気に与えるわけです。それがエネルギーの源になって大気をぐるぐると駆動しているわけです。ああ面白いなと思いました。違ったコミュニティの方と議論しているとそういうことがわかってくるわけです。そうしますと、単に防災の目的だけではなくて、地球環境の変動を測る目的のためにも、もう少しレーダに関して、例えば仕様などを見直していかなければならないということになってくるわけです。そんなにいろんな方面に役に立つのかと思うと、当然インセンティブもやる気も出てくるわけです。他の業界とのコミュニケーションが非常に大事である、人の役に立つ研究テーマをセレクションするときには、自分が属していないコミュニティとの対話が非常に大事であることに気づいてきた訳です。
次の若い世代の人に役に立つこととして考えてきたことは、逆説的ですが問題の難しさにある程度無知であることが大事だということです。例えば午前中にも話しましたが、スライド3は通総研の沖縄にある世界最先端のドップラー偏波レーダですが、これ中で4.5メータのアンテナがぐるぐる回っているわけで、レドームは8メータですが、こういうでかい物で大電力を要するようなものを衛星に載っけることについては、サターンロケットなら打ち上げられるかもしれませんけれども、できるかどうかということに関して頭のいい人は最初から止めてしまう可能性があるわけです。ある程度、ある程度と書きましたのは、まったく無知では困るわけで、例えば熱力学第二法則と矛盾することをやっていても悲劇に終わるだけですが、ある程度無知ならば、なんとかやってみよう、という気持ちが出てくる。消費電力を下げて装置の大きさを小さくするために用いる電波の波長を短くする、そうするとどうしても降雨減衰の影響があるのですけれども、降雨減衰の影響をどう補正するか、グランドクラッタの影響をどう補正するかそういう研究をやってみようというふうな、なんとかマネージしよう、なんとかしようという気持ちになってくるわけです。そういう風なある程度のチャレンジすると言いますか、困難に対してやってみようという気持ちが非常に大切なのではないかと思います。
バイプロダクトと書きましたが、時には、非常にこれが重要な意味を持つことがあります。私は地面の反射、クラッタを除去しよう、降雨減衰の影響がない様にしようと一生懸命努力してきたわけですが、翻ってみますと、グランドクラッタと降雨減衰の両方の効果を使うと、それは表面干渉法というアルゴリズムの改良につながってきたわけです。そういう風にバイプロダクトも見逃すべきではないのではないかと、そういう風な眼で研究を続けていくと、人々の役に立つような成果も出てくるのではないかと思います。
また、特に若い方というよりも、自分自身に対する自戒なのですが、いつも活発でいなさい、早く仕事を始めなさい、ということです。私自身が怠け者ですからたえずそう思っているのですが、困難な仕事でも早く始めることがいいのではないかと思います。ゲーテも言っていますけれども、始めてみれば心も軽くなるじゃないか、楽しくなるじゃないかとということで、まずスタートすることが非常に大事だと思います。
最後に最近のNASAのAnnouncement of Opportunity(公開公募 スライド4)に書いてあったのですけど、NASAといえば私はBetter Cheaper Fasterしか頭になかったのですが、長官が代わったせいですか、最近はかなりいいことを言っています。NASAのビジョンというのは、ライフ、ここにあるライフをインプルーブするためにあるのだ。たぶんここでライフは環境の意味だと思うのですが、我々の地球環境は、かなり危機的な状況にあるわけですがそれを良くしていく。あるいは、ライフを例えば将来、月なら月まで、生命活動ができるように広げていく。さらにその向こうには何があるか、とそういう風なものを発見するのだというようなビジョンがNASAにあると思います。たえず現状を改良して、それから私たちのテリトリを広げていって、なおかつその向こうに何があるかというビジョン持つこと。そのためには、我々の地球環境の源である地球を守る、理解することがNASAのミッションだといっているわけです。それからもちろん生命を探すということ、それから私たちの次の世代の研究者を鼓舞するということが大事だと言っています。そういうことでテクノアントレプレナーシップを実現するためには、やはりこういう風な高いビジョンを持っていることが大事ではないかと、私はそう思います。
西村:
これで受賞者の方から一通りお話を伺ったわけですが、私の方から、質問させて頂きます。最後の環境のお話で、エラチさんには、基礎的な知を目指す研究と応用との関係でお話をして頂いたわけですが、特に環境分野の場合は、困った問題が既にあって、その困った問題をなんとか解決しようという所から始まるお仕事が、ずいぶんたくさんあると思うのです。最初に問題があって、問題を解決するためにみんなで集まって何とか、よってたかって解決していこうという、そのプロセスそのものが、ある知を生み出す、そういうタイプの仕事が、特に環境分野ではかなりあるのではないかと思うのです。この場合に、先ほどエラチさんがおっしゃった、基礎的な研究とそれがアントレプレナーシップによって応用になっていくとき、必ずしも基礎的な研究の目的と、結果として実現する応用とは、そんなに近くはないというお話とどういう関係になるか、現実の問題を解決したいという所から始まるお仕事の場合には、先ほどエラチさんがおっしゃったことと、少し違うのではないかという感じがするのですがいかがでしょうか。
エラチ:
質問の意味を誤解しているかもしれませんが、多くの場合何かを応用するためには、ある基礎的現象についての理解が必要です。簡単な例として、農作物のでき具合を理解しようとして農作物のでき具合をモニターしている農業をやっている人の例をとってみましょう。光が植物とどのように相互作用するかについての、基礎的な理解を必要とするでしょう。その情報を農作物が健全であるかどうかを判断するために利用することができるでしょう。何が問題であるか、あなたが解決しようとしている目的を確立すると、光相互作用、この場合は葉緑素ですが、を理解する基礎的な物理学を必要とします。その相互作用をひとたび理解すると、どうやって全地球的に測定するかの次のステップに進みます。この場合は、衛星を使うことにしましょう。そうすると、植物からの信号を検出することができるような技術を開発しなければなりません。もっと性能の良い検出器や大きな光学系を必要とし、新たな技術の開発が必要になります。このように簡単な応用の問題に見えても、全地球的規模でやろうとすると、基礎的な現象の理解に基づいた多くのステップの技術開発を必要とすることがわかります。
あるときは、この逆に見える問題もあります。例えば、地質学的なマッピングの測定器を開発している人が、フィールドを飛行している時に、興味ある印を見つけ、農民と話した結果その印は、以前は考えたこともなかったけれども、農作物が健全かどうかに関係していることを発見するかもしれません。ですから、ここでキーとなることは、科学者達と研究者達を応用の問題を必要としている人、または応用の問題を持っている人と、どのようにして引き合わせるかということです。お互いがよく理解し合えるように、またはお互いに役にたつことを与えることができるように引き合わせることです。シンポジウムやカンファレンスをやったり、違ったバックグランドの人たちを一緒に話をさせたりすることは、技術を進歩させ、技術を役に立てるためだと思っています。お答えになったかどうか自信がありませんが、たぶんこのようなことではないでしょうか。
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