パネルディスカッション |
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[スライド 1(ブラウン)]
[スライド 2(ブラウン)]
[スライド 3(ブラウン)]
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西村:
ブラウンさん、お願いします。
ブラウン:
パトリック・ブラウンです。新しい発明と新しい発見、工学と技術における新しい進歩、についての基本的な事実は、それが常に他の人たちや前の世代の科学者および同僚の研究者たちの知識と発見とアイデアの上に築かれるということです。一方、発見が行われ、あるいはアイデアが創造されたときに、それらについての報告を書いた人たちは、それらの潜在的可能性について十分には認識していません。私が学術論文を書くたびに、自分の能力不足のために、自分自身では認識できなかったその仕事における潜在的な可能性や私の仕事の事実について、認識してくれる他の人たちがいます。ですから、科学の進歩と発見について絶対的に必須なことは、その知識の上に何かを作り出す可能性を多くの人が持てるように、情報と知識を科学コミュニティの中で共有し、その知識を世界中に広めることです。
私が、簡単に述べたいことは、インターネットが切り拓き広めた新しい可能性、つまり科学者が自分たちのアイデアと発見をお互いの間で、また一般の人々との間で共有する方法の基本的な変化についてです。インターネットにアクセスすることができる人なら誰でも、おびただしい量の情報を瞬時に、基本的には無料で、利用できるということは、それを使いたいと思う誰にとっても学術研究と発見に利便性をもたらすという非常に大きな可能性をもたらしたと私は思います。科学者、技術者、ビジネスマンが、彼ら以前のすべての仕事に完全にアクセスできることを許すことが、自分自身の創造的なアイデアを、その上に創造することを可能にします。また、これらの情報を科学者でない人でも利用できるようにすれば、例えば高校生が単なる興味で科学における最近の新しいことや、最新の技術の進歩などを学ぶことができます。
世界中のほとんどの、科学研究と科学知識は、所有物ではない。知的財産権で保護されていないし、機密とも分類されない。それを作り出した科学者、またはそれを開発した技術者は、本当に心から、その知識を公表することを望んでいる。しかし、問題はほとんどの情報が、例えその知識を作り出した人がその知識を誰とでも共有したいと望んでいても、その発見を出版することから収入を得なくてもいいと思っていても、他の科学者や技術者が利用できるようにならない。その出版物は無料で入手できないから、科学や技術の出版物の購読費が払える豊かな研究機関しか利用できない。この伝統的な出版の仕組みは、科学の情報が紙に印刷されトラックで運ばれることで共有されていた時代にできたものです。出版業者が利益をあげるために、出版業者に版権を与え、出版された仕事に対するアクセスを制限してきました。出版業者は著作権を放棄することができません。私は、このビジネスモデルはもはや正しいものではない、社会にとって最善ではないし、経済的にも効率的ではないと思います。
研究から生まれる科学的なアイデアと発見は、商業的な生産物のようなものではありません。作り出すにはたくさんのお金がかかります。政府と企業の研究と発見のための投資について言えば、米国だけをとっても、基礎研究で、機密扱いでなくて、独占的でない研究に対する投資額は、年当たり400億ドル、日本円で5兆円になります。この研究の目的は、公共のための新しい有用な知識を作り出すことです。知識を作り出すにはたくさんのお金がかかりますが、科学者たちは喜んで無料にしたいし、資金を出した人も喜んで無料にしたいのです。情報というものは、ユニークな性質をもった素材です。インターネットを通して公開すれば、いつでも更新できますし、限りなく安くできます。そこで、どうして豊かな国の豊かな研究機関にいる科学者だけがこの知識にアクセスできるのかという疑問が出てきます。そしてこれらの研究機関にいる科学者、誰でも望むだけ情報にアクセスできるスタンフォードにおいてさえも、多くの情報はあまりアクセスされていません。出版された科学研究全体を検索することは大変困難です。
私は、これは必要ないと思います。世界中で科学的な研究のほとんどをサポートしている科学者、公的機関、企業も、一般の人々――そのために税金を払っている市民――も、彼らが行った、または経済的なサポートをした仕事は、世界中の誰もがオンラインで自由に使えるように公開されるように要求するべきです。もし、誰もがこのシステムに賛成すれば、情報にたくさんのアクセスが起こり、誰もが恩恵を受けるでしょう。このような方法で公開の実際的なビジネスモデルが作られると思います。私自身、現在行われているこのような仕事に参加しています。結論として、生産性――科学研究の生産性、技術開発の生産性、医療の生産性、もっと言えば事業の生産性――をあげることができる最も重要なステップは、世界中の科学、医学、技術の知識で、所有物でなく、機密でないものは、オンラインのパブリックライブラリ上で公開することです。これは本当にお金がたくさんかかるわけではなく、武田さんの言うテクノアントレレナ―シップを推進する大きなステップになりますし、それを推進すべきだと思います。ありがとうございました。
西村:
昨年の武田賞の情報電子系応用分野で同じようなオープンにすべきかどうかという議論がだいぶありました。後でまたコメントを期待したいと思います。たぶん少し違う立場にいらっしゃる、フォダーさんのからコメントお願いいたします。
フォダー:
知とアントレプレナーシップの式について考えることは大変面白い概念形成だと思います。DNAアレイの分野、もしくはヒトの遺伝学に関連して何か新しいチャンスを作る一般的な分野における私自身の経験に基づいてコメントします。今日の議論を始めるにあたって、一つの大きなことは、私たちの生活を良くしようという素晴らしい目的を持っていることを知っていることです。その目的というのは、私たちが実現しようとしている一般的なゴールとして、地球の周りで共通に持っている何かだと思います。これを進めるにはいろいろなやり方、実際に実現するいろいろなメカニズムがありますが、その動機に関しては共通です。私の経験した関係で言えば、ヒトの遺伝学に注目することが最もふさわしい領域だと思います。人間生活を向上させるという考えについては、たぶん、私たちが何であるかを決めている私たち自身のDNAと遺伝的な性質について、今よりもっと理解する以上の人間的らしいことはないと思います。そこで、知の探索をしたいという状況に置かれていることになります。治療についての情報、病気の診断についての情報、薬についての情報、ライフスタイルについての情報の探索を行います、これが知の探索です。
とてもたくさんの知の探索があり、これはチャンスになります。人間生活を良くするためには、知を増大させ、それを私たち自身に適用するメカニズムを必要とするからです。例えば、製品の商品化に焦点を当てた企業の中に起こるアントレプレノリアルな活動のメカニズムのいくつかが、アカデミックな世界における知の探索で頂点を極めたいというアントレプレノリアルな活動と同様に正当化されるべきだと思います。これらのすべて、私たちの目的とするものは、この地球上の状態を少しでも良くしたいと試みるところへ常に戻ってくると思います。
このときに起こることは、私の経験からいうと、ある研究をすると、もっと研究したい、実験をしたいと思うようになることです。この地球上でかなり一般的なことは、私たちみんなはもっと実験してみたいと思うということです。これが、私たちがやっていることからチャンスを作り出したり、発見をしたりする実際のやり方なのです。
もう一つの課題があります。それは、これらのチャンスや発見の価値を認識することがいつもそんなに簡単ではないということです。しかしご存知のように企業の見方では、その研究課題の追求を許すかどうかという企業の経済があります。製品を作って人々に流通させることによる生活の向上があります。もちろんそのことによって会社自身を成長させ、人を雇い従業員の生活を直接向上させるということもあります。これらそれぞれのことがどのようにして動機付けられるかについての本当の回答はもっておりませんが、どんな場合でも、現代の研究は、多くの分野にまたがるようになるだろうということを指摘しておきます。
前進しチャンスをつかむ能力をもって生まれてきた若い人や学生には、新しいことにトライしなさい、実験をしなさいと強調したい。あなたが生活していく上で、このことを当たり前で妥当な方法として受け入れる文化をもち、実際にトライし新しい価値を創造することが、非常に重要なことだと思います。若い人へのメッセージは、これまでの状態に満足するべきでない、新しいことの創造をサポートする社会を必要としているということです。私は、生命科学には将来について学ぶとてもたくさんのチャンスがあると思います。私が言いましたように、診断や治療についての医学的な応用があります。私たちの生活をどのようにして良くしていくかという大切な課題があります。私たちのライフスタイルを見ることでチャンスが生まれます。私たちの好みは何ですか、私たちがやっていることを好むのはなぜですか、私たちがやっていることをどうして選択したのですか、私たちの古の祖先からの背景から理解すること、これらのことは新しいチャンスを作り出すと思います。新しいことにトライすれば、考えなければならない倫理的な課題がいつも出てきますが、この基本的な倫理的課題は、新しいチャンスを作り出すことをサポートし、私たちが持つ多様性を尊重する社会を持つということに帰着すると思います。このぐらいで終わりにします。
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