GaPを作って、売りに行きました。当時はその研究開発、製造、品質管理、営業販売全部を一人でやっていました。といいますのは、化学会社ですから、みんな半導体のハの字もわからないのです。「売りに行ってくれ」と言っても、営業はちんぷんかんぷん。田舎の会社ですからね。全然わからないのです。で、自分で売りに行くわけです。自分で売りに行って「買って下さい」「買って下さい」と言ったら、これを試験してくれるわけですね。それで、試験したら「他社並」です。それで、「買って下さい」って言ったら、「日亜化学さんから買うメリットはなんですか？」「品質管理はどないなってますかな？」とか言うんです。自分一人で全部やってますから、そんなのまるで自信ないですよね。「値段半分にしたらいかが」とか言うんです！そんなんで、月100万円ぐらいしか売れませんでした。 そうしているうちに「GaAsというのをやってくれ」と言われました。GaAsもGaPと同じようにできます。これも、3年ぐらいで、自分で全部やりました。このGaAsというのは、赤外とか赤色LEDに使う結晶で、やはりこれもLEDに関係しているのです。3年で作って売りにいくと、これもやはり同じような理由で売れない。それで次に、ガリウムアルミ砒素(GaAlAs)のエピタキシャル成長をやって、こんどは実際に赤外とか赤色LEDを作るところまでいくわけです。これをやってくれって、営業が取ってきまして金がないですからこれをまた自分で炉なんかを作りました。で、これも4年で赤外と赤色LEDを作るところまで成功しました。これも売りに行ったらやはり売れないわけです。100万や200万ぐらいしか売れませんでした。 結局ですね、以前の会社（日亜化学工業）に入社して10年間の間に、従来からある赤外と赤色のLEDの、原料からデバイスを作るところまで、全部自分で、会社でラインを作ってやったわけです。で、売れないのですよ。100万や200万くらいしか。でも、この10年間で全部作ったんです。ですから、10年たったら、LEDに関しては非常に詳しくなった。 しかし製品が売れない。売れないから、会社からはケチョンケチョンなわけです。もう"ゴクツブシ"なんです。だって蛍光体で稼いだ金を私が全部研究開発でドブ川に捨てたようなものですから。もう昔からの会社のお偉いさんからはケチョンケチョンです。「おまえ会社をつぶす気か」「いつになったら売れるものできるのか」って。これは入社してから5〜6年間の話しです。10年ぐらいたったら｢もうやめ｣って言うんです。こりゃあもう自分も会社におれなくなる。といいますのは、10年間、開発課の長老といえば私だけで、あと何人かいましたが、みんな蛍光体の部署に飛ばされているのです。LEDはあまり売れないですから。で、私だけが残っていますから、皆が私だけを責めるわけです。これで困ってですね、これはもう最後はクビになってもいいと思いました。 私は、過去10年間ずっとLEDの研究をしていまして、青色LEDをやりたかったのです。上司に何回も言ったことがあるんです。「青色LEDやりましょう」と。そうしたら上司は、「うちみたいなド田舎の会社で、金もない、人もない、知識もない、何もないところでそんなもんできるわけないだろ」。その通りなのです。私もそう思っていた。だから、過去10年間やりたかったのですが、やらなかった。ところが、10年目にキレました。「会社やめろ」って言うんですから。こっちも好きなことやって最後はやめてやれって思いまして、これで、青色LEDをやろうと決めました。 そこで、会社の上司に言ったって、埒があかないので、会社の創業者に直訴に行きました。ここが中小企業・ベンチャー企業のいいところなのですが。「どうせ許可出ないだろ」と思ってましたが、もうクビ覚悟ですから行きました。創業者は小川信雄社長（当時）といいまして、今年亡くなられました。それでその人に「青色LEDをやらしてくれ」と言いました。そしたら、「いいよ」って言うのです。これは絶対ウソだと思った。たぶん金を使わないと思ってそう言うのだろうと。そこで、ハッタリかましまして、「最初から数億円出してください。そうじゃないと青色LEDはできません」って言った。そしたら「いいよ」って言う。ついでに「1年間フロリダ大学に遊びにいかせてくれ」って言ったら、これも「いいよ」なんです。もうほとんど5秒で全部OKなんです。ね、こんな楽なことはない。 それで許可が下りたのです。あとはもう専務以下、みんな猛反対ですよ。顔見るなり「おまえまた何するんじゃ、ドブ川にまた金捨てるんだろ」って。しかし社長の許可をもらって、青色LEDをやるようになった。これで1年間フロリダ大学行きまして、MOCVDの勉強をして、帰ってきてから青色LEDの研究をやるようになりました。