The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002

選考理由書
環境系応用分野

選考理由
業績とその創造性
1. はじめに
2. Charles Elachiによる人工衛星からのレーダによる地球環境観測分野の開拓
3. 畚野、岡本による人工衛星からのレーダによる降雨観測システムの確立
4. 生活者にとっての価値の創造
参考文献
図1
図2
図3

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選考理由
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 この業績は、地球規模での環境問題や水資源問題に取り組むために、地表面や大気、海洋における様々な物理、化学、生物学的な変数(パラメータ)の空間分布を、地球的規模で昼夜の別なく、天候に左右されず、高精度で計測するための人工衛星に搭載する能動型マイクロ波センサ、すなわちレーダを開発したことである。

 Elachi、および畚野と岡本は、人工衛星を利用したレーダによるリモートセンシング技術に着目し、植生分布、海上風分布や降雨分布など、地球環境問題や水資源問題の対応に不可欠な変数を全地球規模で計測する技術を確立した。この技術は熱帯域や極域など雲に覆われることの多い地域の定常的な計測を実現し、降雨、風、土壌水分、地表面起伏など、可視光領域、熱赤外領域の電磁波では計測できない変数を得ることを可能とした。これらの業績には、いち早く環境・水資源問題の重要性を認識し、問題解決に向けて地球規模でのモニタリングシステムを開発した先見性において特筆すべきものがある。

  Elachiは米国ジェット推進研究所において、1978年3種類のレーダ(合成開口レーダ、海面散乱計および海面高度計)を搭載した人工衛星SEASATから、高解像度の地球環境観測に、中心的な役割を果たし、世界で初めての成功に導いた。1981年から1994年にわたる一連のスペースシャトル搭載画像レーダの開発に指導的役割を果たした。このプロジェクトでマイクロ波と対象物の相互作用に関する研究を幅広く進め、地球表面の多くの種類の環境データを観測する技術を確立した。さらに、Elachiは、レーダに関する基礎科学と技術的基盤を確立し、衛星搭載に適したレーダの設計を先導した。また、プロジェクトの提案およびその推進において卓越したリーダーシップを発揮し、衛星搭載レーダによる地球環境観測プロジェクトの成功に不可欠な役割を担った。

  畚野と岡本は、通信総合研究所において、衛星通信における電波の減衰の研究から着想し、大気大循環のエネルギー源および水資源としての雨を正確に観測すべく研究に着手した。1980年に、航空機搭載二周波レーダによる降雨観測に世界で初めて成功し、引き続き1986年、日米共同の熱帯降雨観測衛星(TRMM)プロジェクトを発足させた。そこで、彼らはTRMM衛星の中核となる世界初の衛星搭載用の降雨レーダを開発し、TRMM衛星は1997年に打ち上げられた。降雨レーダはそれまで情報がきわめて少なかった熱帯地方の降雨のデータを、均質かつ正確に観測し、また台風の三次元降雨強度分布や、エルニーニョ発生時の異常な降雨現象も、初めて正確に観測した。

  Elachi、および畚野と岡本の、卓越した工学的創造性とリーダシップによって構築された、レーダによる地球環境観測システムは、均質かつ精密な地球環境データを提供している。このデータの活用により、将来にわたって人類の生存と生活の豊かさを確かなものとする大きな一歩を踏み出したといってよい。工学的創造性に富むこの業績に武田賞を贈る。
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