リーナス・トーバルズ |
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図 9 |
また、オープン ソース プロジェクトが抱えている別の問題として、競争は良いことではありますが、時として船から落ちてしまうということがあります。互いに競い合う代わりに、プログラム生態系での競争を止めてしまうようなプロジェクトは好ましくありません。私たちは、これを「戦争」と呼んでいます。それが頻繁に起きないのには、社会的理由と経済的理由があります。GPL(多目的言語)では、組み替えのためのライセンスの要求事項が、技術レベルでの敵対的方法で競い合うことをほとんどできないようにしています。
3 番目に、すべての分散型プロジェクトが抱えているコミュニケーションの問題が挙げられます。これが分散型コンピューティングを難しくしている理由です。分散型コンピューティングにおける労力の大半が、コミュニケーションを制限しようとする傾向にあります。明らかに、人類はコミュニケーションに優れています。それは私たちがごく自然にやっていることです。しかしそれと同時にコミュニケーションの障壁や理解の限界もあります。「言語」のような単純な壁です。技術的に解決方法があるものもあります。インターネットは明らかにその解決方法の一つです。中には本質的な解決が難しく、真のグローバルな開発努力を生み出すことを非常に困難にしてしまうものもあります。
最後のスライドをご覧ください。私がもう一度ここで主張すること、指摘したいことは、個人的な観点ではありますが、開発とはまさに製品の繁殖だということです。これは生物学における手法です。そして、分散型のオープン開発は、これをより自然な選択と自然な競争方法で行おうとしているのです。生物学の分野でさえも、多くの人々が商業的な環境で、繁殖を行っています。例えば、今日の養鶏業をみると、彼らは非常に積極的に、そして非常に厳密な規則で、ニワトリを確実に育てます。彼らにとって唯一重要なことは、製品としてのニワトリの品質の高さだけです。うまく生産されなかったニワトリはすべて殺され、二度と使われることはありません。
この過激な手法、つまり繁殖に対して商業的手法をとることの問題は、非常に偏った最終結果を生み出す傾向にあることです。実際には、決して野生では生き残れないニワトリを生産しているのです。オープン ソースの開放性がもたらすのは、よりバランスがとれた視点です。製品はこうあるべきだという、自分自身の見解を押しつけようとする人々は何千人といます。そして私達は、多様な開発環境を持つことによって、営利企業にしばしば見られる偏りを避けているのです。これは、UNIX が歴史的に抱えてきた問題の一つであると、私は思っています。すべての営利企業はシステムで何がしたいのかということについて、非常に偏った見解を持っています。その結果、すべての開発がサーバーオペレーティングシステムに向けられ、パーソナルユースにはそれほど役に立たないシステムに終わってしまったのです。しかし、Linux によって、多くの別々の理想を持てるようになりました。また、Linuxはひとつのニッチを持っているのではありません。サーバーに Linux を使用した人もいます、しかしデスクトップやラップトップLinuxを使用した人、スーパーコンピュータにLinuxを使用した人、それ以外のあらゆる種類のコンピュータに Linux を使用した人もいるのです。この一方的な見方を避けることにより、オープン ソースは自然に生まれたのだと考えます。私にとっては、それは、それほど大きな目的だったわけではありませんが。
「早くリリースし、頻繁にリリースする。」それが Linux のモットーの 一つです。理由は、進化のスピードを向上させるためです。私達は、次世代製品をより優れた物にするため、迅速なフィードバックを得るのに、各世代のサイクルをできるだけ短くしたいと考えています。これは、営利企業では通常できないことです。あまりにも費用がかかり過ぎて、数年に一度しか製品をリリースできないのが現状です。
この講演の締めくくりに、コンピューティングの将来についての考えをお話したいと思います。今後、コンピューティングや特にソフトウェアは、ますます複雑になっていくでしょう。そして、包括的な意味での複雑性とは、それが複雑になればなるほどコントロールするのがますます難しくなるということを意味します。実行しようとしているソフトウェアが、ソフトウェアを生み出した組織よりも複雑になった未来に、理論上何がおきるのでしょう。今日の地球上で、最も成功した、かつ最も複雑な技術の断片を眺めるとしたら、それはどんな技術なのでしょうか。それはソフトウェアではありません。それはあなたであり、そして私です。そしてどのようにしてその技術が起こったのかを考えてください。それは特定のスーパーエンジニアと彼によってコントロールされた人々のチームによるものではありません。進化によって起きたのです。進化こそ、あるシステムが生み出された環境よりも潜在的により複雑なシステムを実際に生み出すことが、証明された方法です。そして私が思うに、これこそ、なぜオープン ソースと進化の手段が結局のところ、一人の人が完全に把握することが不可能に近いような複雑なシステムを確実に生み出すことのできる唯一の方法なのかということに対する、答えなのです。それは、私たちが目指していることでしょうか。私にはわかりませんが、それが私たちの終着点だろうと思っています。 ご清聴ありがとうございました。
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