The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2001
受賞者
講演録
リーナス・トーバルズ
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リーナス・トーバルズ
   

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図 8
ですから、ソフトウェアの遺伝子であるソース コードをオープンに交換できるお陰で、進化のあらゆる要素、変異や漸進的な変化だけでなく、並列におきる変化も活用できるために、オープンアプローチが非常にパワフルだということは、オープンアプローチによる開発が大変楽しいということはさておき、少なくとも私にとって最も重要なことです。

また、オープン ソース コミュニティでは、いつもでというわけではありませんが、しばしば組み替えが可能だということを条件とすることがあります。例えば、Richard Stallman 氏が認めている、「General Public License(一般公開ライセンス)」は、これはLinuxがライセンスとして使用しているものですが、自分のソース コードと他の人のソース コードとを組み替えても良いということを明らかに条件としています。これに今すぐに従うことはできないでしょうけれど、これは非常に重要なことなのです。それは、必ずライセンスによる必要があるわけではありません。例えば、ライセンスではなく、社会の習慣の中で、結合を奨励しようとするオープン ソース製品もあります。これは科学が使用しているものです。科学の社会では、科学者が他の科学者に複製方法や作業の改善方法を伝えるのは社会的に習慣化されたことです。科学の分野にはライセンスを許可された人はいません、その代わり上記のような非常に根強い社会的習慣があるのです。何百年以上も、科学の分野に見られる組み換えを奨励するシステムを私たちは進化させてきました。

ソース コードをフリーにすることによる並列性については既に述べました。もう一つ、Richard Stallman氏のような多くのオープン ソース提唱者が話題にしているのは、特許などを無効にしようということです。特許は、あることを実行できる人を限定してしまうもので、それを一つの会社や少数の会社に限定してしまうことにより、あらゆる場所にいる人をプロジェクトに参加させるという並列性をも制限してしまいます。オープン ソースは競争を奨励します。特にアメリカは競争を賛美している国であるはずなのに、同時に特許などの多くの非競争的な法案を美化する傾向にあることが、私には非常に不思議でなりません。知的財産権はすべて本質的に、非競争的なものであり、そしてそれが常に知的財産の全てなのです。オープン ソースは、競争を良いものにしようとしています。例えば、私の個人的なプロジェクトであった Linux では、私のソース ツリーだけではなく、いろいろな Linux 業者が管理している、少なくとも 3 つや 4 つのソース ツリーが常にあります。これらのディストリビューション バージョンには、私が加えた変更以外の変更も取り入れられており、実際に一つのプロジェクト内でさえ競争が繰り広げられています。彼らが他のオープン ソース プログラムの異なった部分を採用し、プログラム生態系全体の中で競争しようとしていることは言うまでもありません。

Figure 8

オープン ソース アプローチにも、マイナス面があるのは明らかですし、これらのマイナス面を無視することは全く公平ではありませんから、いくつかの問題点についてもお話しましょう。ものごとをもっと並列させようとすると、通常は多くの労力を重複させることになります。多大なエネルギーを膨張させている並行プロジェクトをご存知でしょう。同じことに取り組んでいる人達は、無駄な労力を費やしていることになります。特に、もしそれが本当に興味深いことであった場合、多くのグループが同じ領域で作業したがっていることに気付くはずです。 競争の効果を得るためにはこれが必要です。しかし、それと同時に会社内でこれを行うことは非常に困難です。同一社内で複数のプロジェクトを維持し、オープン ソース モデルを作ることは、経済的に価値がないと言えるかもしれません。ですから、会社の外にこの競争を持ち出すことが許されさえすれば、経済的にみて実際に実行可能であろうと思います。ですから、オープン ソースの良い面だけをつまみ食いして会社内に適用することはできません。なぜなら、複数のプロジェクトを走らせるという可能性を経済的な理由でいや応なしに失うからです。広い基盤がある場合は、コストを分散させることができます。生物学を例にとると、何百何十億の個人を繁殖させるには、世界的なスケールで非常にお金がかかります。しかし個人的レベルではそれは非常に面白いことなので何百何十億の個人の繁殖が可能になっているのです。
 
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