The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2001
受賞者
講演録
リーナス・トーバルズ
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リーナス・トーバルズ
   

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図 6

図 7
これらは、ソフトウェアだけに関連したことではないという例をいくつか挙げましょう。私が個人的に好きな例は、私がよく知っている科学の例です。ヨーロッパでは、科学的な思考モデルは1600 年代と1700 年代に始まったと考えられています。それにより、全く違った思考モデルに完全に置き換わってしまいました。それには長い時間がかかりました。社会は決してすばやく変化することはありませんが、しかし科学は錬金術の概念を進化という考えに基づくものに置換えました。新しい考えを創造するために、既存の考えを統合することによって、偉大な科学的発見が生まれます。また、ノーベル賞にはならないような、小さな科学的発見、小さな漸進的な改善も同様に、重要です。競争と選択、理論の誤りを立証できる概念、そして善悪の選択基準としてそれを使用すること、それが、科学的思考モデルでは最も大きな部分となります。それによって錬金術モデルは過去のものとなりました。過去には、秘密を厳重に警護し、できるだけ多くの知識を独占しようと努力していました。なぜなら、知識を個人的な生活の向上のために使っていたからです。それが、ヨーロッパの中世における知的財産でした。

対照的な例を挙げましょう。それは宗教です。科学と宗教が多少なりとも敵対するものであると言うつもりはありません。それぞれの思考モデルが非常に異なっていることをお話ししたいだけです。科学的思考モデルは進化を促そうとします。一方、宗教的思考モデルは、少なくともその大半が、変化と選択を有害であると考える傾向にあります。宗教はそれらの基礎的知識を変えることをほとんどの場合、望みません。宗教は、神聖視されている知識という本体を持ち、その神聖さが変化に対する障壁となっています。知的財産は持ちませんが、進化に対する別の障壁を持っているのです。

図 6

すべてのソフトウェア開発者達は、進化における大きな概念の一つについて十分に承知しています。それは漸進的な進化と呼ばれるものです。今日私たちが知っているように、漸進的な進化なくして、ソフトウェアは存在できません。ソフトウェアを作成するには非常に費用がかかります。従って、既存のソフトウェアのそれぞれの部分を利用し、それらをゆっくりと改善して行く必要があります。誰もがこのことを知っています。

しかし、進化の他の部分、従来のソフトウェア開発、あるいは少なくとも商業的ソフトウェア開発における現状は、特に競争という点で、うまくいっていません。競争は悪いものです。競争には非常にお金がかかるので、ほとんどの会社が望んでいません。どれが実際にベストなのかを知るために開発ライン同士を競わせる必要がある場合、製品そのものだけではなく、競合する開発ラインにも多額のコストがかかります。同じニッチマーケットに競合会社が参入しようとする場合、プログラム生態系の一部として競争するのは大変辛いことです。なぜなら、すべての既存の競争者は、製品の初期開発コストの非常に高いという参入障壁を持っているからです。そして私達のだれもが知っているように、ソフトウェアには固有のネットワーク効果があります。つまり、一度ニッチマーケットで優位な立場を獲得すると、他がそれを覆すのは、非常に困難だということです。

ソフトウェア業界においても、知的財産権の名のもとに進化の組み替えを制限しようとする問題を私達は抱えています。そして、これは既存の商業的ソフトウェア開発への参入障壁として使われているのです。

図 7
 
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