ヤング武田賞2019 受賞者


最優秀賞

Ms. Richa Shivangi Gupta Ms. Richa Shivangi Gupta (Labhya Foundation 共同創業者・Chief Program Officer、インド)
「貧困家庭の子供たちが学ぶ公立校向けSEL教育の実践」
(LABHYA FOUNDATION)

 インドの公立学校は貧困家庭出身の子供が多く、栄養不足や教育・家庭環境の不備で学力不足になり、対人・対社会性能力を十分伸ばすことができないでいる。また、そのような子供は、成人しても就職などで著しく不利な状況に追い込まれることが多い。一方、米国のNPO法人 の調査では、感情をコントロールして、互いの多様性を認め合い、対人関係を良くする心の教育(Social Emotional Learning 以下SEL)を行うと、生徒の社会性スキルを改善できるばかりでなく、他の教科の学力も改善できるという結果が出ている。
 受賞者は2017年にLabhya財団を設立し、貧困家庭の子供達が多い公立学校向けにSEL用「ハピネスカリキュラム」を構築して、インドのデリー地域 及びその周辺で実践活動を行ってきた。現在、SELカリキュラムは地方政府の認可も得て、1,000以上の公立校に導入され、120万人の生徒と5万人の教師に使われている。パートナー校にイノベーションハブを設置して、学齢に応じた教材や教育方法を提供し、生徒の反応やそのときの教師の対応も教師間で共有している。ハブの教材、教具の販売収入はプロジェクトの収入の32%を占め、プロジェクトの持続性も見え始めている。調査会社や大学を巻き込んだ活動効果の検証システムも構築しており、最近の調査では、70%以上の生徒と90%以上の教師にポジティブな変化が見られ、学校も変わったという結果を得ている。
 貧困家庭の子供たちが学ぶ公立校でのSELの実践と、結果の検証で成果も確認されていることを評価し、最優秀賞とした。

 


優秀賞

Ms. Anne K. Rweyora Ms. Anne K. Rweyora(Smart Havens Africa社 創業者・Managing Director、ウガンダ)
「圧縮レンガによる安価な住宅の提供」
(Women and Housing in Uganda)

 ウガンダでは、他のアフリカ諸国と同様に、都市人口の多くは不衛生なスラムに住んでおり、収入の大半を家賃に取られ、貧困から抜け出すことができないでいる。シングルマザーの家庭では、特に深刻な状況である。
 受賞者は、子供のころ父親が亡くなって親戚により住み家を追われ、家族がホームレスになったため、住居の大切さを痛感した。
 大学卒業後2015年に、同じような経験を持つ友人とともにSmart Havens Africa社を設立してManaging Directorとなり、安価で工期の短い圧縮レンガによる住居建設により、スラムに住む女性や若者が自己所有の住まいと安定した就業機会を得られるようにする活動を始めた。
 圧縮レンガは特殊な形状で、上下、左右に組み合わせてモルタルなしでも強度が得られ、現地の砂とセメントまたは石灰を混ぜ、水分量を砂の種類、状態に応じて最適になるよう調節する。
 住居希望者には、財産管理や金融・融資知識の訓練を受けてもらい、資金状況に応じて分割払いも行う。レンガ積みの仕事をしてもらって通常よりも高い賃金を支払うことで、多くの女性に安定した住居と仕事とを提供している。
 これまでに18戸の家を作ったが、通常の焼成レンガの場合に比べて1/5程度のコストで済んでいる。
 特殊形状の圧縮レンガを地元の材料を用いて製造して、女性や若者に安価な住宅を供給するとともに、継続的な就業機会を提供し、また、家計管理訓練等も行うなど、生活基盤の安定化に貢献していることを評価して優秀賞とした。



優秀賞

Mr. Batbold Ganbat Mr. Batbold Ganbat (Hurh-Gol Farm 創業者、モンゴル)
「地域支援型酪農システムの導入によるモンゴル放牧業の近代化」
(Effective utilization of land resources)

 本件は、地域支援型酪農システムの導入によるモンゴル ヘンティー県ホルフ地域の放牧業近代化の試みである。
 モンゴルでは、1990年に市場主義経済が導入され、土地と家畜の私的所有が認められるようになった。その結果、放牧に従事する農家の数は大幅に増加したが、逆に放牧の規模が縮小し、牧地が荒廃するようになった。また、モンゴルでは現金収入を得るために羊を飼育して羊毛を売っているが、年に一度の羊毛売却では十分な現金収入が得られない。放牧規模の縮小と牧地の荒廃、現金収入の減少から放牧をやめ、職を求めて都市部に移住する者が増えたが、都市部でも職が得られず失業者になっている。
 受賞者は、ホルフ地域の放牧業を近代化させるため、地域の放牧農家と共同で、牧地の共同使用、ピードモント牛の導入、牧草(アルファルファ)とカンゾウの栽培による牧地の荒廃防止を試みている。9人の仲間と共同で2012年に元国営農場だったHurh-Gol 農場を買取り、2,000ヘクタールの農地で小麦栽培を始め、その収益を用いてピードモント牛の導入を始めた。現在、ホルフ地域の100軒の放牧農家がこのプロジェクトに協力している。
 市場主義経済が導入された結果、放牧規模が縮小し、近代的酪農への転換が困難になった状況を仲間と共に地域支援型酪農システムの導入によって解決しようというリーダーシップを評価し、優秀賞とした。

 
優秀賞

Mr. Joveth P. Mahinay Mr. Joveth P. Mahinay (BEAGIVER Ventures, Inc 創業者・CEO、フィリピン)
「貧困脱却のための就学支援」
(BEAGIVER Ventures, Inc.)

 受賞者は貧困家庭から身を起こして大学を卒業し、バッグ販売ビジネスを立ち上げ成功した自身の経験から、貧困脱却には教育が重要であると考え、2013年から貧困家庭の子供たちの就学支援を行ってきた。
 2017年にBEAGIVER Ventures, Inc.を立ち上げ、貧困家庭へ標準の2倍の収入が得られる縫製職を世話し、更に奨学金を支給して、子供を通学させられるような経済的基盤を構築させた。子供達にはレインコート付きの通学バッグを支給し、更にNGOと共に通学ボートを就航させ、給水タンクを設置して子供たちの水汲み負担を軽減し、勉強できる環境整備に努めてきた。
  顧客を巻き込んだ中心的な活動として1個購入ごとに寄付用にもう1個購入してもらう活動(buy one, give one)を行っている。通学バッグのみでなく汎用バッグやTシャツも販売し、更にヤカン族の伝統工芸品も加えた。若いヤカン族が興味を失っていた伝統工芸技術の振興を図るプロジェクトも起こした。このような活動も行いながら、自企業も年間売上950万ペソ(約2000万円)の企業に発展させた。
  これまでに65,000人以上の生徒と174校を支援してきた。支援している子供たちの50%以上の学業成績が向上し、中途退学者の率も激減したという地域の中学校校長の報告もある。少数民族保護の活動も行っており、2013年からの成果を評価して優秀賞とした。
 


優秀賞

Ms. Lilian Nakigozi Ms. Lilian Nakigozi (Women Smiles Uganda 創業者、ウガンダ)
「AIによる産科瘻孔カウンセリング」
(Artificial Intelligence for Fistula Consultation, Diagnosis, Referral and Treatment)

  本件はFistula―産科瘻孔 (さんかろうこう)で苦しんでいる患者を、AIアプリケーションを使ってコンサルティングをし、重症患者を病院へ行くように促すことで少しでも産科瘻孔患者を救おうとしているプロジェクトである。
  ウガンダでは妊娠・出産に関する知識の欠如、産院や病院の少なさやアクセスの悪さなどから、本来予防できるはずの産科瘻孔が年間1,900件程あり、75,000人が現在でも苦しみ続けている。
    受賞者自身も産科瘻孔を患い3年もの間苦しんだ経験から、同じように苦しんでいる女性を救いたいと思い、2016年にWomen Smiles Ugandaを立ち上げ、Robinahという産科瘻孔専門のカウンセリングができるAIアプリケーションプログラムを開発した。
  毎月2US$の使用料でネット上のこのアプリケーションを使うことができる。症状や聞きたいことを質問するとこのアプリケーションが応答してカウンセリングを行い、症状によっては提携の病院などを紹介し診察や手術を受けるよう促す。既に10,000人以上が利用しており、この3年で750人程に治療や手術を受ける病院を探す手助けをした。
  現在11名の女性スタッフがおり、職を得ることが難しい女性たちに菜園キットなども販売して、女性の自立支援にも力を入れている。活動の売り上げは年々増えており、2019年度の利益は66,000US$を見込んでいる。今後はアフリカのみならず世界にもこの活動を広げようとしている。
  受賞者は女性特有の病状で苦しんでいる人達を助け、女性の生活自立にも大いに貢献しており、積極的な活動を評価して優秀賞とした。
 


優秀賞

Mr. Saeed A. Alfagieh Mr. Saeed A. Alfagieh (ANAMEHANI LLC 創業者・CEO、イエメン)
「紛争地域における職業人の手間仕事仲介」
(ANAMEHANI)

  中東地域、特に紛争地域の失業は継続的に増加し、多くの資格を持つ労働者が仕事を探すのが難しくなり社会的な不満となっている。本件では良いスキルを持つ信頼できる職業人が満足できる収入を得られるように仕事を仲介する。家庭や会社の太陽光システムの設置、電気配線、小さな建築の仕事など日常的なさまざまな仕事、手間仕事をやってくれる人を探すことができる。
 受賞者は2015年にANAMEHANI社を創業し、このためのオンラインサービスを行っている。スマホから利用でき、クレジットが使え、プレミアムアカウントもあり、NGOと会社向けのプラットフォームも持っている。
 競合に対する利点は、手間仕事(永続的でない用事や雑用)に絞っていること、現存するソーシャルネットワークを活用すること、強いチームワークと名声のあるアドバイザリーボードがあること、適正な料金、毎日の膨大なトランザクションを処理できる強力なシステムであることである。イエメンに次いで2番目のビジネスがエジプトなので、2018年の11月に本社をカイロに移した。
 2018年では、12万5千人の職を仲介し、売り上げは601,236US$、利益は356,474US$だった。2016年と2017年の売上は、それぞれ164,000US$、288,400US$であった。
  ネットワークを使った求人求職仲介サービスを行い、労働者のスキルを向上させ、収入を増やし、経済を発展させようとしている。実績もあり、価値のあるサービスを提供し事業としても成長していることを評価し優秀賞とした。