ヤング武田賞2018 受賞者
Mr. Ankit Agarwal(Kanpur Flowercycling Pvt. Ltd. 創業者・社長、インド)
「供花リサイクル事業の展開」
(HelpUsGreen®)
インドでは寺院やモスクに捧げられる供花は年間8百万トンに達し、多くがガンジス河などに捨てられ、農薬を含む有害物質が河を汚染している。
受賞者はKanpur Flowercycling 社を設立し、供花を捨てずに有用物に加工し、収入を得る新しい試みを行った。Uttar Pradesh州の268の寺やモスクから1日8.7トンの供花を集め、香スティック、肥料、生分解性発泡スチロール(Florafoam®)に加工している。供花の収集と区分け整理作業は貧しい女性に行ってもらい、彼女たちに就業機会を提供した。また、加工技術の特許を6件申請している。
このHelpUsGreen®事業は数百万トンの供花を有用物に変える革新的な事業として評価されている。これまで1万トンの供花を加工し、1トンの化学殺虫剤を処理した。また、1260人の貧しい女性の生活を安定させ、119人の児童を就学させた。現在29名の社員と73名の女性リーダーがいて、売上高は2016年9万米ドル、2017年22万米ドルであり、27%の収益を確保している。2018年60万米ドルの売上を見込み、2019年には国内5ケ所に本事業を展開する計画である。
河川に廃棄されている寺院の供花を捨てずに有用物に加工し、事業として収益を上げるとともに貧しい女性に就業機会を提供し、ガンジス河の汚染防止に寄与していることを評価し最優秀賞とした。
Ms. Dalareich Polot(Ginto Fine Chocolate Corporation CEO、フィリピン)
「ボホール島のカカオ老木を生かした高級チョコレート製造・販売」
(Beam to Bar Chocolates in the Island of the Chocolate Hills)
受賞者の実家は、フィリピンのボホール島でカカオの実からtableaと呼ばれる飲用のチョコレートを製造販売していたが、収入は一家7人を支えるには全く不十分であった。受賞者は2014年に奨学金を得てベルギーのゲント大学のカカオ研究室に留学し、チョコレート製造技術を学んだ。ゲント大学から帰国後、2017年にDalaerich Chocolate Houseというtableaとチョコレートを製造販売する会社を立ち上げた。ボホール島には、スペイン植民地時代に植えられたカカオの木が各戸にあるが、老木となっていて全く利用されていない。受賞者はこのカカオ老木を再生し、豆の栽培からチョコレート製造まで一貫して行う方式(bean to bar方式)の高級チョコレートを製造販売しようとしている。
豆から一貫して製造することにより、季節毎のカカオの風味を生かすことができる。ボホール島にはチョコレート・ヒルズと呼ばれるカルスト地形があり観光名所となっている。この地理的特徴とbean to bar方式でのチョコレート製造・販売を組み合わせてボホール島の観光地としての魅力を更に高めようとするプロジェクトであり、選考委員会特別賞とした。
Dr. Nabuuma Shamim Kaliisa(Community Dental and Reproductive Health創業者、ウガンダ)
「移動式クリニックによる子宮頸がん早期発見」
(Cervical Cancer Screening for All)
ウガンダでは子宮頸がん早期発見の手段が十分ではなく、高い子宮頸がん感染率と死亡率が報告されている。都市部でも医療機関が少なく健康診断を受ける機会は限られるが、地方や農村部、貧困層の女性は健康管理情報を得ることや検査を受けることが更に難しい状況にある。
受賞者は医師であり、首都カンパラにCommunity Dental and Reproductive Healthというクリニックを2016年に開業した。子宮頸がん早期発見のために、クリニックに来る患者を待つのではなく、医療機関へアクセスが難しい様々な女性のグループからの依頼や、クリニックの方から女性グループを特定して移動式クリニック検診車で出向いて検査をしている。検査費を安価にし、割賦払いも導入することでより多くの女性が検査を受けられるシステムにした。
初期段階の子宮頸がんが見つかった場合には治療も行い、ステージの高い患者にはウガンダがんセンターと提携し、治療・手術等を受けるように促している。検査を受けた女性にはモバイルアプリケーションなどを利用してフォローアップするサービスも提供している。子宮頸がん検査の他に、小学校と提携して有料で歯科定期検診、難民へは無料で歯科検診も提供している。
これらの活動はウガンダ全土の多くの女性や子供の健康管理を向上させることに貢献しており、若き女性医師としての積極的な活動を評価して選考委員会特別賞とした。
Mr. Elijah Amoo Addo(Food for All Mobile Technologies Ltd. 創業者・CEO、ガーナ)
「飢餓と戦うための食料提供と低価格販売」
(Okumkom Mobile App & Community Discount Stores)
ガーナの4人に1人の子供は空腹で眠りにつく一方、45%の食料が供給ラインで失われていると言われている。受賞者は、Food for All Ghana Programを2014年に立ち上げ、Okumkom(Akan語で飢餓と戦う人の意味)という携帯端末で使えるソフトウェアを作り、低収入の都会の住民、孤児、学生、コミュニティの人たちに大幅に値引きした価格や無料で食料品を提供している。また、無料あるいは大きな値引きで食料品を販売する店も運営している。
都会の低所得住民に毎月1万米ドル分の食料を配給するとともに、ガーナの12の低収入組織に低価格食料を提供している。2017年の売上は約4万米ドルで約千米ドルの黒字だった。
漁村にある無料の学校に受賞者の組織から食事を提供してもらうようになったら、食事が出来るので生徒が定期的に学校に来るようになったという例もある。低価格で食料を購入した場合、購入価格に15%上乗せした価格で販売することで得られる収入で運営経費を賄っている。
2014年から実際に食料を配給し続けていることを評価し優秀賞とした。
Ms. Naadiya Moosajee(WomEng共同創業者、南アフリカ)
「女性技術者養成教育の推進」
(Women in Engineering)
南アフリカでは女子は理系には向かないという男性優位の偏見がある。世界を見ても男子に対する女子技術者数の比率は多くの国で約10%と低い。一方、設計段階から女性の視点が入ると、一般の生活者が使いやすい製品が生まれやすい。そこで女性技術者を増やすべく、幼児から大人になるまで一貫した理系教育を施すプロジェクト、WomEng(Women in Engineeringの意味の呼称)を2006年に立ち上げた。女性による女性の視点に立った教材キットやワークブック、テキストを作っているのが特徴で、作成した教材を教育機関や企業に提供してきた。2018年時点で南アフリカ内に9拠点を持ち、世界16か国にも拠点を展開している。2017年度は総収入21万米ドル、利益3.3万米ドルの企業に成長し、2018年度も伸びている。2014年からこのプロジェクトの卒業生が生まれ始め、ユニリーバ社に35名採用されている。その他、電子産業アーム社、エンジニアリング・コンサルタント業アラップ社など数社からも受け入れられた。また既にWomEng卒業者が創始者となったベンチャーも4つ誕生している。女性技術者の育成、教育を目的とした事業として継続性もあり、着実に実績を積み重ねている点を評価し優秀賞とした。
Mr. Venuste Kubwimana(International Transformation Foundation代表、ケニア)
「学校における水キオスクの設置」
(A Water Kiosk at School)
ケニアの農村部では飲料水確保のため児童が離れた地点まで水を取りに行く必要があり、児童にとって大きな負担になっている。受賞者は2013年、学校に水キオスクを設置し、地域住民に3-5円/20Lで水を売り、学校にも収益がもたらされるというビジネスを始めた。学校は衛生環境を補助金に頼らず充実させることができ、学童の通学率は向上した。数km先を通過する公的水道管から水キオスクまでパイプで引水する。水道設備はJoin The Pipe. Organization( JTP、アムステルダム)のものを入れる。設備の内容は、自動停止式蛇口、ドリップ式手洗い蛇口、児童に持たせる詰替え可能な容器、学校から家まで水を運ぶ手押し二輪車からなる。設置資金36万円は2年で返済でき、次の水キオスク設置に回せる。既に11ケ所の地域・学校に水キオスクを設置し、地域の生活の質向上に大きく寄与している。2018年に2ケ所設置することが決定し、隣国ルワンダの学校でも水キオスクの設置が決定した。
学校・地域に水の供給という利便を提供したことにとどまらず、教育の場に水販売というビジネスも導入し、児童の成長を促している。受賞者の信念、実行力、アントレプレナーシップを評価し優秀賞とした。