ヤング武田賞2017 受賞者
Kathy Ku(ウガンダにあるSPOUTS of Water社共同創業者、米国)
「ウガンダで飲料水除菌フィルターの生産と販売」
(SPOUTS of Water)
ウガンダでは、マラリアやAIDSよりも飲料水が原因の病気で亡くなる子供が多い。受賞者はウガンダにホームステイし、飲料水による病気を経験した。工学を専攻していたので、帰国後粘土を原料とする低価格除菌フィルターを設計した。これをウガンダの家庭で使える価格で販売するために、仲間とともにウガンダに移住し、2012年に工場をつくりパイロット生産を始めた。粘土と砂を混ぜて成型し乾燥させて窯で焼きセラミック除菌フィルターをつくる。除菌率は99.9%であることを確認した。
2015年からPurifaayaという商品名で販売を開始した。これを家庭で2年間使うコストは20米ドル(約2,200円)である。
2015年から売上が始まり、2016年の売上高は18.5万ドル(約2,035万円)となった。2017年に工場を新設し製造能力は4倍になっている。2019年には売上高を91万ドル(約1億円)とする計画である。また、現地の人達で会社を運営できるように人材育成にも注力している。
仲間とともに現地に移住して、技術を確立し、販売にも力を入れ、ウガンダの課題を解決することに貢献したことと、現地の人たちで運営できるように努力していることを評価し最優秀賞とした。
佐野 航季(東京大学大学院博士後期課程、日本)
「無機ナノシートを用いた動的フォトニック結晶の開発とその光学的応用」
(Development of a dynamic photonic crystal based on inorganic nanosheets)
ルリスズメダイやネオンテトラなどの熱帯魚は、フォトニック結晶と呼ばれる規則的なナノ周期構造を表面に持ち、環境の変化に応答してこれらの構造を動的に変化させることにより、自在に色を変化させる。このような動的なフォトニック結晶は、構造を制御することにより光を自在に操ることができるため、光を制御する有用なツールとして期待されている。しかしながら、動的フォトニック結晶を人工的に作ることは極めて困難だった。受賞者は、負に帯電した酸化チタンナノシートの水分散液において、脱イオンによってナノシート間に働く静電反発力を最大化することで、動的フォトニック結晶を作製することに成功した。得られた動的フォトニック結晶は、温度、pH、磁場などを変化させることにより反射光の色を自在に変えることができる。
開発した動的フォトニック結晶はフォトニック分野での基盤技術となり、研究開発成果は次世代色制御技術として産業界から期待されている。具体的にはバイオメディカルセンサや波長可変レーザへの応用が進められている。このような様々な利用、応用が広がることを評価し選考委員会特別賞とした。
Ammishaddai Ofori(Flippy Campus共同創業者・CEO、ガーナ)
「学生用情報共有ネットワーク フリッピィ・キャンパス」
(Flippy Campus)
Flippy Campusは、ガーナの学生が、講義のスケジュール変更や試験の変更などの情報にタイムリーにアクセスできるサイトとして出発した。仲間の学生が何をしているかを知るためのアベニューサービス(フェイスブックのような公開メッセージ交換サービス)も開発した。Flippy Campusは、学生同士が情報を共有したり、大学が学生のカウンセリングをしたり、教材などを共有できるサービスであり、アンドロイド版、iOS版、Webアプリケーション版がある。アマゾンのクラウドサービス(AWS)を使ってシステムを開発した。2015年からサービスを始めたが、ユーザである学生が必要とするサービスを機動的に提供することで、2017年7月現在では、月次ユーザ数は48大学で29万人となった。
最近では、オンラインショップも始めた。オンライン大学生協のようなサービスで、飲み物やデッキシューズなど、学生が必要とするものを中心に10%引きで販売している。今後はナイジェリアやケニアの大学生にもサービスを広げてゆく計画である。
学生が便利に使え、学生同士のコミュニティとしても機能するサービスであり、学生の要求に答えるサービスを適宜提供し売り上げも上げていることを評価し優秀賞とした。
Nilar Myint(For Her Myanmarプロジェクトリーダー、ミャンマー)
「ミャンマー女性のための情報発信」
(For Her Myanmar)
ミャンマーは60年間にわたる軍事政権の後、2016年に民主的な国家になった。若い女性は、千年に渡って続いてきた地位からまったく新しい地位を経験している。
知識は力であるという信念の下で、女性のための様々なトピックスを扱うFor Her Myanmarというフェイスブックページを2016年から始めた。専門記者ではないが、情熱があり、ジャーナリズムの教育を受けた15人のライターが記事を書いている。
1年間で38万人以上のフォロワーを獲得した。話題は、ブックレビュー、キャリア、家庭、ファッション、化粧、心理学、女性のためのニュースなど多岐にわたっている。
月に約500ドル(約5万5千円)の広告収入を得ているが、透明性の保持をコミュニティと約束している。お金を貰って記事を書く時はその旨表示し、しかもライターが読者に勧めたいと信じる事しか書かない。通常のWebページでも公開しており、さらに美容サービスなどの有料コミュニティをつくり、テレビ番組も計画している。
1年で38万人以上のフォロワーを達成し、ミャンマーの女性ジャーナリズムの先駆けとなっていることを評価し優秀賞とした。
Nishan Chandi Shrestha(ECO CELL INDUSTRIES 社Managing Director、ネパール)
「震災復興用圧縮強化レンガ製造技術の普及と事業化」
(Eco Cell)
シリカエアロゲルは断熱素材としては優れているが、機械強度が低く、製造過程で超臨界乾燥を必要とし、コスト高という難点があった。
受賞者は従来と異なるメチル基を付加したシラン化合物を原材料に用い、加水分解反応を酸性条件下で進行させ、その後塩基性にすることで重縮合を促進させ、硬くて可撓性のあるゲル骨格を形成する合成法を見出し、有機・無機ハイブリッドエアロゲル新素材の開発に成功した。
大面積での製作が可能で、熱伝導度も15 W/m・Kと高断熱性を示した。さらに透明性、可撓性を有し、コストはシリカエアロゲルの1/10であり、家庭やビルの窓などへの応用が可能である。
本開発成果は次世代の低コスト高断熱素材として産業界から高く評価されており、企業と協力し2020年の実用化を目指しており、優秀賞として評価できる。
Vaibhav Lodha(Nomisma Mobile Solutions社共同創業者・Chief Business Officer、インド)
「小規模商人用ネット決済システム」
(ftcash)
インドには約5,500万人の小規模商人がいるが、取引の多くは現金で行われている。
Vaibhav Lodha氏は、この小規模商人を対象に、安全で便利なオンライン決済を可能にするftcash(faster than cash)というサービスを提供している。
ほとんどの購入客はクレジットカードやスマートフォン決済などのオンライン支払が使えるので、支払にはこれを使う。
小規模商人は銀行口座しか持っていないので、この支払を受取ることが出来ない。
ftcashに登録すると購入客のオンライン支払をftcashの口座で受取り、それを商人の口座に移すとともに、受取記録を知らせる。
小規模商人は現金を扱うことなく、購入客の支払を受取り、管理できる。
商人に信用してもらうために、最初に300人の商人と一緒に彼らのお金が入金していることを確認し、商人の数を増やしていった。
2015年6月にムンバイで事業を始め、過去18か月の間に金額ベースで100倍(2017年7月で5億8千万円)、商人数は28,000人になり、急速に成長している。
小規模商人の多くはネット決済が出来ず、煩雑な現金決済を行わざるを得ないという課題を解決し、購入客の利便性を改善して、小規模商人のネット経済への道を開いたことを評価して優秀賞とした。