ヤング武田賞2016 受賞者


最優秀賞

Sana Talmoudi Sana Talmoudi (東北大学工学研究科前期博士課程2年、チュニジア)
「ドライブレコーダー」を利用した低コスト道路損傷診断システムの開発

  道路路面の損傷を検査するためには、数億円する路面検査特殊車両により路面検査を行い、膨大なデータ解析を行わなければならず、大きな経費を必要としていた。
受賞者は自動車に搭載したGPS、加速度センサを有する市販の「ドライブレコーダー」を用い、道路の凹凸による縦揺れを検出し、そのデータをtoorPIAデータ解析ソフトで解析し、道路の劣化や異常を見える化し、路面の損傷診断を可能にした。福島県の国道で計測とデータ解析を繰り返し行い、これまでの路面検査特殊車両による道路損傷診断に劣らない結果を得た。検査車両数は限定されていて、5年に一度の検査しかできないが、本システムによれば毎日の検査が可能であり、コストも1/4となる見込みである。
 本開発は福島県、東北大学、toor社の産官学共同プロジェクトで、受賞者は開発全体について主体的に関わりデータ集積・解析などを行い、道路損傷診断システムへの実用化を推進した。更にこの成果をもとに睡眠時無呼吸症候群診断やインフォーメーションセキュリティ分野への応用にも取り組んでおり、最優秀賞受賞に値する。

 


選考委員会特別賞

Nnaemeka Ikegwuonu Nnaemeka Ikegwuonu (ColdHubs Limited, CEO、ナイジェリア)
  ナイジェリアでは電力供給が十分でなく、小規模農家では収穫物を冷蔵貯蔵する設備もないため、収穫した作物や果物の多くが腐敗等で無駄になっている。
そこで受賞者は太陽光発電パネル付き冷蔵設備の必要性を感じ、2014年に自己資金7,800米ドルで最初の太陽光発電パネル付き冷蔵庫を作り、国の助成金を受けて実証実験を行った。その結果、冷蔵庫の内部温度を5℃~15℃に保つことで、収穫物の貯蔵寿命が従来の2日間から21日間に伸びることを確認し、この成果を受けてColdHubs Limited社を2015年に設立した。
現在、3台の冷蔵庫が稼働中で、各冷蔵庫には30㎏の生鮮食料品を収納できる箱が150個あり、農家や小売業者に一箱一日50セントで貸し出している。この冷蔵庫を使うことによって、作物や果物の腐敗による廃棄を80%減らし農家の収入を25%増やすことが出来た。
地域に根差した問題を取り上げ、実用可能な解決方法を提案し、且つ自ら会社を立ち上げて成果を上げており、選考委員会特別賞として選考した。



優秀賞

Angeline Makore Angeline Makore (Mwedzi Social Enterprise創業者、ジンバブエ)
  ジンバブエでは貧困層家庭の一日の生活費が1米ドル以下だが、使い捨て生理用パッドが1パック(10枚入り)1米ドルと高額で手に入らない為、少女や女性たちは生理中には学校を休むことになり学力が低下し中退してしまう。パッド購入費用を捻出するために売春などに手を染め、HIVへの感染や中絶なども行われているのが現状である。若い女性たちが学業にも職にも就けないことが、ジンバブエの経済発展へもマイナスの影響を与えている。
受賞者はそれらを解消するために、自国内で調達可能な材料を使用して1年以上は再利用可能な布製の生理用パッドを生産・販売し、その利益で少女達に継続的に無償配布して学校へ通うよう促そうとしている。女性達にはパッド作りの職を与えることで地域の経済活性化にも貢献しようと「Mwedzi(Moon) Social Enterprise」を起業した。
すでに生産の準備を始めており、2017年1月から1パック(5枚入り)6米ドルで販売する予定である。受賞者は衛生管理教育を全土へ広げ、ジンバブエの経済発展にも貢献するという包括的な計画を持っている。彼女の活力と実行力は社会的にもインパクトを与え、ジンバブエで女性の未来を拓くリーダー的存在になることを期待し優秀賞に値すると評価した。

 
優秀賞

Anuar bin Mohamed Kassim Anuar bin Mohamed Kassim, P. Eng. (Senior Lecturer, Technical Uiversity of Malaysia, Malacca、マレーシア)
第2の目 視覚障がい者用の新しい障害物検知器の開発と実用化

  視覚障がい者が外出するときは通常白杖を使用するが、胸から頭までの高さの障害物(頭部レベル障害物)を検知するのは難しいため、頭をぶつけて怪我をする事故も多い。そこで受賞者はゴーグル型の障害物検知器を開発実用化した。ゴーグルの中には超音波検知器が入っており、1.5m以内の左右と前方の障害物を検知できる。障害物までの距離を警報音の音量で知らせ、警報音の高さで障害物が右、前、左にあるかを知らせることが出来る。バッテリ残量も使用前に警報音パルスの数で判別できる。ゴーグルは50グラムと軽量である。視覚障がい者は普通、眼鏡をかけて外出するので、このゴーグルをつけても違和感はない。実証テストの結果、頭部レベル障害物を検知し衝突を防止できることを確認した。
世界でも初めての頭部レベル障害物衝突防止器具である。2011年から改良を重ねる努力を継続しており、既に約30個の完成品を視覚障がい者団体や大企業CSR活動を通して視覚障がい者に贈っている。知的財産権は大学が保有しておりまだ会社設立準備段階であるが、優秀賞を授与し活動を支援する。
 


優秀賞

金森主祥 金森主祥(京都大学大学院理学研究科助教、日本)
有機・無機ハイブリッドエアロゲル高断熱性新素材の開発

  シリカエアロゲルは断熱素材としては優れているが、機械強度が低く、製造過程で超臨界乾燥を必要とし、コスト高という難点があった。
受賞者は従来と異なるメチル基を付加したシラン化合物を原材料に用い、加水分解反応を酸性条件下で進行させ、その後塩基性にすることで重縮合を促進させ、硬くて可撓性のあるゲル骨格を形成する合成法を見出し、有機・無機ハイブリッドエアロゲル新素材の開発に成功した。
大面積での製作が可能で、熱伝導度も15 W/m・Kと高断熱性を示した。さらに透明性、可撓性を有し、コストはシリカエアロゲルの1/10であり、家庭やビルの窓などへの応用が可能である。
本開発成果は次世代の低コスト高断熱素材として産業界から高く評価されており、企業と協力し2020年の実用化を目指しており、優秀賞として評価できる。
 


優秀賞

Tanuj Jhunjhunwala Tanuj Jhunjhunwala (Planys Technologies 社CEO、インド)
水中インフラ調査用ロボット開発とサービスの事業化

  近年インフラ構造物の老朽化対策が重要になっており、特に水中構造物の現状調査では潜水夫に代わる低コストで安全な手段が求められている。
受賞者は、2013年から小型潜水検査ロボットの開発に着手し、ユーザーの要望を反映して、可搬性、準備時間短縮、モジュール化等に留意して製造した。2015年2月大学IIT Madrasの卒業生と教官とによりPlanys Technologies 社を設立してCEOに就任し、小型潜水検査ロボットの販売およびそれを使った検査サービスを開始した。
サイクロンにより損傷した沖合のタンカーターミナルの被害状況の調査やワニ類が生息するダムの底部に設けられた開閉ゲートの不具合調査などに使われて成果を上げている。
インド国内では、すでに20を超えるユーザーを獲得しており、今後、インド国内だけでなく東南アジア、中近東をはじめとする各国で増加する水中インフラ構造物の検査需要に対応する予定である。
受賞者自身が会社を創業して、自前技術による小型潜水ロボットを開発製造するとともに、調査結果の解析を行うソフトの開発により調査・解析サービスの充実を図って、急増する水中インフラ構造物の検査を低コストで安全に行えるようにしたことを評価して優秀賞とする。