ヤング武田賞2015 受賞者


最優秀賞

Mojtaba Radfar Mojtaba Radfar(Shole Aria社 CEO、イラン)
Aria E-book(教育用電子書籍システム)の開発

  受賞者は、生徒が興味をもって学習するITシステムを開発し、2010年にShole Aria社を創業した。その後、イラン教育省と契約し、初等学校の第一学年から、中等学校の最終学年まで全学年の教育用システムを開発した。このシステムは音声ファイルやマルチメディアファイルを扱え、教師自身が教材や試験問題をつくる機能も持っており、電子黒板を使ったり、教材カードを作ったりすることも出来る。パソコン、タブレット端末、携帯電話などからシステムが使えるので、いつでもどこでも学習できる。教師や生徒が通信できる学習用ネットワーク機能も備えている。このシステムを使うと生徒は興味を持って学習するので、短時間で多くの学習成果が得られる。2014年現在でイラン全国の150万人の生徒と2万5千人の教師が使っている。 受賞者自身が会社を創業し、教育省と契約して教師が必要とする機能を持ったシステムを開発しイラン全国で採用され、教育効果を向上させていることを評価し最優秀賞とした。
 


優秀賞

Asilkhodjaeva Munisakhon Asilkhodjaeva Munisakhon(服飾デザイナー、ウズベキスタン)
多用途に変化できる衣装

  ウズベキスタンの伝統的な衣料(絹、綿織物)を用いて衣装の一部を離脱着できるデザインにより、ウズベキスタンの女性に、季節や場面に応じて変化させて着用できる衣装を提供する事業を実施している。着替えの時間を節約できるし、クラシックからカジュアルまでバラエティに富んだ装いを楽しむことができる。受賞者は現在、自宅に事務所を開設し、パートタイムで4人のスタッフ(裁縫師、ミシン掛師、インターンとして裁縫学園の学生)を使っている。 将来的にはプレタポルテも視野に入れており、多様な衣装を揃えたい女性に、一着で多用途に変化できる衣装を提供し、生活を豊かにしようとしていることを評価した。



Gamal Albinsaid Gamal Albinsaid(Indonesia Medika CEO、インドネシア)
廃棄物回収による医療保険の実践

  受賞者はGarbage Clinical Insurance (GCI) というマイクロ医療保険の仕組みを考え出し、インドネシアの低所得層の医療改善に役立てている。住民が、定期的に生ゴミや空き缶、プラスチック等の廃棄物を回収し、肥料化やリサイクルによってこれらを換金する。これを資金とすることによって、住民は初期治療が受けやすくなるという。約2,500人の会員が週2回の廃棄物回収を行うと、会員のうち毎月約20%が受ける治療の費用をまかなうことができる。2009年に活動を開始し、現在までに5カ所にクリニックが開設され、医師15人、看護師12人の他にインターン、助産婦が働いており、88人がボランティアとして運営に参加している。 この仕組みの特徴は、回収廃棄物の換金と医療保険を組み合わせている点であり、医療の充実とともに、地域の環境改善にも貢献している。


Muhammad Dawood Sheikh Muhammad Dawood Sheikh(Young Development Trust創設者、パキスタン)
技術教育の推進により平和な社会へ

  2008年当時のパキスタンは政情が不安定で、テロが頻発し、多くの若者は雇用がない状態で、一部は暴動に加わっていた。若者を安定した仕事に就かせることが重要で、そのために実用的な技術を身につける職業訓練学校を創設することが必要と考え、受賞者は18歳の時に若者支援団体(Young Development Trust -YDT-)を設立した。テロの無い平和な社会の実現を目指して活動している。地元の有力者や事業家に支援を訴え、学校建設用地の提供を受けた。校舎の建設はこれらの支援と自己資金でまかなう。建設工事は始まっており、2016年4月の完成予定で、500人の若者に現地の産業で働けるような教育を始める。並行して、ビデオ関連技術の職業訓練を6人の若者に実施したところ、それぞれが企業に就職し、家族を養っている。彼らはボランティアとしてYDTにも協力している。 限られた資金の中で、多くの支援者を得ることができ、高い企画力、計画力、実行力によって学校の設立に向けて着実に進んでおり、優秀賞に値すると判断した。
 


Song Saran Song Saran(Amru Rice社 CEO、カンボジア)
契約農業による持続可能な農業の推進

  カンボジアでは多くの余剰米があるが、精米技術が低くベトナムなどに玄米で安く売却されていた。国際競争力のある高品質な米を提供するため、米の集荷、保管、精米体制の一元化が必要であった。受賞者は祖父の精米会社を引き継ぎ、2008年AMRU社(現Amru Rice社)を創業し、最新鋭精米機の設置、契約農業システムの導入、米の収穫地近くに精米所を建設するなど積極的な経営を実施し、年間10万トンの精米を行い、カンボジアの二大精米輸出業者の一つに成長させた。供給を長期的に確保するために農業協同組合を通じて1万の農民と栽培契約を結び農民の所得の向上にも役立っている。設立時は50万ドルの資産だったが、5年間で400万ドルに成長した。現在、年間5万トンの精米を輸出しており、3,500万ドルを売り上げている。 このように、常に新しい視点で輸出を含めて精米産業の拡大を図り、付加価値の高い有機米を含む米の安定供給、農家に対する購入保証を行い、農民の所得の増大に寄与したことは評価できる。
 


高見 剛 高見 剛(大阪大学大学院理学研究科助教、日本)
新しい水素貯蔵物質の開発

  受賞者は水素貯蔵量が室温で3.8重量パーセントの世界最高値をもつ物質の合成に成功した。その物質はギ酸銅四水和物とピリジンが反応してできる金属有機化合物である。簡単に合成できるのでコストは安い。また水素の貯蔵・放出が可逆的で、水素貯蔵時の発熱量も少ないという特長を持つ。車載用として米国エネルギー庁から出されている指標に合わせて、2018年に水素貯蔵量5重量パーセント達成を目標に開発を進めている。この成果は2014年に米国物理学会の専門誌に掲載されており、また特許出願中でもある。 実用化につながれば、社会的インパクトが大きいので、優秀賞とし今後に期待したい。