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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
矢木修身(やぎ・おさみ) |
日時: |
2008年11月10日 |
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異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 |
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三井:今回は、「微生物と共に生きる」というテーマでお話を進めたいと思います.講師として、大島泰郎さんと矢木修身さんに来て頂きました.以前に「微生物は敵か味方か」というテーマをとりあげたことがありますが、その時の講師の方は感染症がご専門だったものですから、敵のほうの話に集中してしまい、それでは不公平だと思いましたので、味方のほうの話をする機会を作って下さるようにとお願いしてきて、今回がその機会のはずでした.ところが「微生物と共に生きる」というと、味方ばかりじゃないということに遅まきながら気が付きましたけれど、それはそれで面白いのではないかと思います.では、最初に矢木さんに15分程お話して頂きます.
矢木:日本大学の総合科学研究科におります矢木と申します.最初に自己紹介させて頂きます.私は東京大学農学部の農芸化学科を卒業して、修士課程に進みました.当時は石油から作った石油タンパクが実用になる直前の頃でした.そこで、石油会社に入りまして、石油から食料を作る研究を4年間程やりました.それと同時に、会社からは、バイオテクノロジーを使って何でもよいから儲かることをやれと言われていましたので、水虫を殺す薬の開発もしました.その後、もう少し勉強したいと思って大学に戻り、石油化学製品を微生物で変換するという研究を3年間やりました.石油化学製品の一つであるプロパンジオールから効率良く乳酸を作ることができたのですが、プロパンジオールの値段が高かったため、企業化できませんでした.
その後、当時の環境庁管轄の国立公害研究所、今の環境省が所管する独立行政法人・国立環境研究所で22年間程過ごしました.まず、湖沼の浄化に取り組みました.公害の華やかなりし頃でしたから、バイオテクノロジーを活用して環境をきれいにしようということで、日本中の湖を見て歩きました.特に霞ヶ浦はひどくて、アオコでベッタリでした.今、私のオフィスがあるJR市ヶ谷駅に沿った池でも、夏になるとアオコでベッタリになります..
そのアオコを無くするというのが私の研究でした.結局は窒素とリンがいけないのです.窒素とリンは家庭や工場から排水として流されています.霞ヶ浦の場合は90%以上減らさないときれいにならないことが分かりました.ついで、地下水の汚染が大きな問題となり、現在でもバイオテクノロジーを活用して浄化する研究を続けています.この間、バイオで水俣湾を浄化しようと、水銀を処理する遺伝子組換え微生物を作り、毒性試験もやって、それらを水俣湾の浄化に使えないかと考えたこともありました.現在は、大学に移り、教鞭をとっています.
私の専門はバイオを使って環境を浄化するバイオレメディエーションという分野です.私が学生の頃は、小指の第一関節の半分くらいに当たる1グラムの土の中に1億匹の細菌がいると教わりました.今、学生には、1グラムの土に100億の微生物がいると教えています.遺伝子工学が進んだおかげで、いろいろな菌が見つかっています.これは大島先生のテリトリーですが、120℃で生きる菌もいて、培養は圧力釜でやります.私の仕事は、その100億の微生物と友達になり、それらに如何に有効に働いてもらうかを研究することなのです.
最近は、いろいろと進んだ技術が出てきています.お婆ちゃんが子供を産める時代ですからね. オワンクラゲの光る遺伝子を発見した下村脩(ボストン大学名誉教授)さんはノーベル賞を取りましたが、このような光る遺伝子は、サルとか、魚とか、いろいろなものに入れられています.ナイトパールという光るメダカや、珊瑚の遺伝子を入れた赤く光る熱帯魚はアメリカで実際に売られています.2倍早く成長する鮭も産まれてきています.日本で、いくら組換えたものは駄目だと言っても、泳いでくるわけですね(笑).今のアメリカでは91パーセントが組換え大豆です.日本は大豆をほとんど輸入していますから、好むと好まざるとに関わらず、私たちは既に食べていると思います.
私たちの腸の中には大腸菌がいます.遺伝子組み換え技術を使って、この大腸菌でヒトのインスリンを作っています.それ以前は、糖尿病患者の多くはインスリンが高価で買えなかったのです.今やインスリンは安いので、逆に打ち過ぎてしまって、血糖値が下がって危険だと言われるほどです.それから、ヒト成長ホルモンも大腸菌に作らせています.小人症といって120センチの背丈にしかならない人がいます.成長ホルモンは、脳下垂体から出るホルモンですが、1人の患者を治療するのに、死者650人分の脳下垂体を集めなければいけません.組換え大腸菌ではそれがドンドンできます.その成長ホルモンを注射すると、30センチも背が伸びます.肝炎に効くといわれているヒトのインターフェロンも大腸菌に作らせています.他にも、皆さんが家庭で使っている酵素入り洗剤の酵素もそうです.このように微生物は人間が必要とする遺伝子を増やしてくれています.
ところで、汚染された土壌が日本全国で現在どれくらいあるかご存知でしょうか.環境省のホームページで調べて頂くと分かりますが、汚染箇所は、公式には、2,500カ所くらいになっています.しかし、実際には100万カ所あります.その対策に1年間で2千億円のお金を使っているのです.
私たちの腸には非常に多くの大腸菌がいます.ところが、ペットボトルに入った水の中に大腸菌が1匹でもいると、これは飲んではいけない水だといって大騒ぎになります.1グラムの便には1千億の大腸菌が含まれています.お腹の中には1キログラムくらいの便がありますから、菌の数は百兆になります.1匹が何で悪いと思いますか.隅田川にもたくさんの大腸菌がいます.飲んでも必ずしも病気にはなりません.大腸菌がいることはトイレの水が混じっているということなのです.
微生物がいないと、私たちはゴミの中に住まなければいけません.ゴミを分解しているのが微生物です.僅か1,000分の1ミリの大きさで、目には見えませんが、分裂速度の速いものでは10分で2倍になります.半日で、確か、何十億トンという計算になります.それほど増える力があるのですから、それを利用しない手はないと思って、私はバイオレメディエーションをやっているのです.
微生物のなかには、味噌や醤油、お酒などを作る良い菌もたくさんいるわけです.私たちの腸の中にも、そういう良い菌を住まわせればよいのではないかと思っています.皮膚に葉緑素を埋めることができれば、光合成によって自分で栄養も作ることもできますね(笑).それはやり過ぎですが・・・.
微生物は、レンズに菌が生えるように、ガラスの上でも、高温でも、低温でも生きることができます.最近はいろいろな菌が見つかってきています.土壌中に菌が100億いるといっても、培養では1億しか生えてきません.だから、99億は培養ができないので、分からないことがたくさんあります.酸素があると死んでしまう菌が多いからです.菌にとって、酸素は毒なのです.
地球ができたのは46億年前と言われています.そして命の生まれたのが38億年前です.燃えていた地球から8億年あれば命ができるのですね.この38億年前の1匹の微生物から今の私たちへ遺伝子が繋がってきているわけですから、ゴキブリだろうと何だろうと、遺伝子的には、皆仲間です.いかにそういうのと一緒に生きるか(笑).38億年前から生きている微生物は私たちの先生なのです.だから、私たちは微生物からいろいろなことを学ばなければいけないと思います.
最近のデータによれば、微生物にも記憶力があって会話をしている(quorum sensing)ということが分かってきました.このように、多くのことが分かってきていますので、微生物の良い点を利用し、共に生きるために、これからは微生物をいかに有効利用して地球環境を守るかということだと思います.(拍手)
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