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1.情報化社会におけるコンピュータの重要性とオペレーティングシステムの役割
コンピュータと通信に象徴される情報技術の急速な発達は、ワールドワイドな広がりで広範囲なデータへのアクセスを可能にし、生活者に様々な価値をもたらした。情報技術においては、ハードウェア技術とともにソフトウェア技術が重要であり、利用者にとっては応用ソフトやコンテンツが身近な存在である。また、通常のコンピュータだけでなく、生活者を取り巻く様々な機器がインテリジェント化され、マイクロプロセッサを組込んだ機器すなわち組込みシステムの数は、通常のコンピュータの数より桁違いに大きなものになっている。
情報は世界中の生活者によってわけへだてなくアクセスされることが重要であり、情報を提供するためのハードウェアやソフトウェアもまたそれを欲する人々にわけへだてなく提供されることが重要となる。情報化社会においては、「オープンであること」、すなわち自由にアクセスでき、自由に利用できることが重要なキーワードになる。この「オープンであること」は、コンピュータのソフトウェア開発、特に基盤的共通的なソフトウェア開発においても、広範な人々の知恵を集めるために重要な要素である。
通常、コンピュータのソフトウェアにおいて、応用ソフトウェアやコンテンツの開発を容易にするために、共通する基本的な機能セットであるOSが用いられる。最近では、メモリ容量の制約が厳しい小規模な組込みシステムにおいても、開発コスト削減と信頼性の向上のためにOSを用いたシステム構成が採用されるようになってきた。
OSは、多くの応用ソフトウェアから共通して利用される基本的な機能を提供し、コンピュータ全体を管理するソフトウェアである。また、エディタやコンパイラなど応用ソフトウェア開発に必要なツールとなるソフトウェアもOSユーティリティとして重要な基本ソフトウェアである。応用ソフトウェアの開発者は、OSの提供する機能を利用することによって、開発の効率化が可能となり、応用ソフトウェアの操作性を統一することができる。また、ソフトウェアはOSが共通であれば他のコンピュータでも動作することになる。すなわち、OSは、情報化社会の重要なインフラストラクチャの役割を果たすコンピュータやインテリジェント機器におけるソフトウェアの要となる、基盤的共通的なものである。OSとしては、例えば、Windows、Mac OS、UNIXなどがあり、応用ソフトウェアとしては、ワープロソフト、表計算ソフトなどがある。
OSは作成者の能力と個性を反映し、実行速度や異常発生時の対応などにおいて優劣が生じる。また、OSはハードウェアおよびソフトウェアの発展に従って、大規模化、高機能化してきており、OS自身の開発においてバグや非効率なプログラムが作り込まれる確率が高くなり、その対策がきわめて重要になってきている。また、OSの仕様はハードウェアの機能と応用分野に応じて最適化が必要とされる。
このように、ソフトウェアの規模が大きくなり、開発に多大なコスト(人員、時間)がかかるようになると、ソフトウェアはその開発コストを負担した企業の財産であるという考え方が支配的となり、利用者がソフトウェアを改変することを禁じ、ソースコードは非公開とされるようになった。しかし、大規模ソフトウェアにはバグや障害が避けられず、特にOSや基本ソフトウェアの場合には深刻な影響を及ぼす。従って、自由にソースコードが入手でき、改良改変できるようにしたいという要求が強くなってきた。
また、家電機器や携帯電話などの小規模組込みシステムへの応用においては、通常のOSは規模が大きくて使いにくい。また、外部からの入力信号に対して時間的な制約の中でも優先的な処理ができるようなリアルタイム性が特に要求される。そこで、小規模組込みシステム用のOSが様々なベンダから提供されている。しかし、ベンダにより仕様がバラバラであるために、プログラム担当者が混乱を起こしやすく、設計資産である応用ソフトウェアの流通ができず、従って、ソフトウェア生産性が低いという問題があった。一方、OSを統一すると、システム全体で多種類のプロセッサを使う場合には、個々のプロセッサの特性を活かしきれないという問題も出てくる。
本受賞対象は、これらの問題点を解決するものであり、コンピュータ及び組込みシステムのOS開発を対象としたオープンなコンピュータ基本ソフトウェア開発モデルの提唱と実践である。
上記の開発モデルに基づいて進められた3つのプロジェクトについて要点を述べる。また、図1および表1は、これらのプロジェクトが対象とする領域やその特徴を比較して示したものであり、図2はプロジェクトにおける経過の概略を示している。 |
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