The Takeda Foundation
年度計画・報告

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平成17年度事業報告書
(平成17年4月1日〜平成18年3月31日)

1. 顕彰事業
  生活者の富と豊かさ・幸せをもたらした業績を顕彰するグローバルな賞としての武田賞(情報・電子系、生命系、環境系の3分野、副賞1分野1億円)については、財政的な問題から当分の間中止することにした。武田賞に代わる顕彰事業について種々模索した結果、日本のバイオベンチャーを応援するバイオビジネスコンペJapanに協賛し、「バイオ先端知賞」(賞金100万円)を提供することとし、2005年5月26日の理事会で承認された。

  バイオビジネスコンペJapanは、2005年8月15日から募集を開始した。2005年度のバイオ先端知賞は、VEGF受容体−2特異的な新規血管新生因子をもちいた病的血管治療薬の開発というテーマの東京大学医科学研究所 教授の渋谷 正史 氏に決定した。2006年4月17日に授賞式が千里ライフサイエンスセンターで行われ、松原常任理事がプレゼンターとなり、渋谷氏にバイオ先端知賞を授賞した。

2. 助成事業
  2006年3月2日理事会の第1号議案の決定により、若手優秀研究者として黄 紅雲さんに奨学金を支給した。期間は1年間で金額は100万円である。

3. 調査事業
(1) 事例調査
  (1-1.) アントレプレナー列伝中立機関編の調査
    平成16年度から17年度にかけての調査事業として、「アントレプレナー列伝中立機関編」というタイトルで、公的研究機関や大学におけるアントレプレナーについての調査を行った。大学で活躍されている、日本を代表するアントレプレナー精神にあふれた人々10名を選び出し、それぞれの事例調査を行い、技術者や研究者がどう技術を磨き発展させ、それを新しいコンセプトや製品の構想につないだのか、事業化をどのように成功させ生活者の豊かさを実現させたかを明らかにした。2005年11月にオーム社から垂井康夫編「世界をリードするイノベータ −電子・情報分野の日本人10人−」として刊行した。対象者は以下の通りである。

坂村 健(東京大学大学院情報学環教授、コンピュータ・アーキテクトから情報化社会のアーキテクトへ)
赤ア 勇(名城大学理工学部教授、名古屋大学特別教授 窒化ガリウム青色発光デバイスの開発―前人未踏に挑む―)
天野 浩(名城大学理工学部教授、窒化ガリウム青色発光デバイスの開発への情熱、苦闘そして克服)
大見忠弘(東北大学未来情報産業研究館館長、教授 ウルトラクリーンテクノロジーの創設)
城戸 淳二(山形大学大学院教授兼有機エレクトロニクス研究所所長、有機ELの光で、世界を照らす)
伊賀健一(日本学術振興会理事、横を縦に、常識を覆した面発光レーザの着想と実現への道)
泉 勝俊(大阪府立大学産官学連携機構教授、"Anything new?"という問いかけに応えて、夢を実現したSIMOX基板の開発)
江刺正喜(東北大学未来科学技術共同研究センター教授、MEMSに魅せられた、夢多き信念の人)
藤嶋 昭(神奈川科学技術アカデミー理事長、酸化チタンの光触媒技術で世界をクリーンに)
金出武雄(米国カーネギーメロン大学教授、産業技術総合研究所デジタル・ヒューマン研究センター・センター長 自由な視点移動で映像を楽しむ仮想化現実技術の実用化)

  (1-2.) アントレプレナー列伝「超波及度編」
    広くアントレプレナーの範囲を考えると、企業における収益と無関係に飛躍的に新しい分野を切り開いたことで、その効果が広く生活者に利益をもたらしている人々が存在する。平成17年度は、そのような人を中心に以下の10名を対象として調査を行った。一部未完成の部分があり、来年度も継続して調査し完結させる。

Linux: Linus Torvalds
GNU: Richard Stallman
セルプロセッサ:久多良木 健
iモード: 榎啓一
2足歩行ロボット:広瀬真人
ロボットパロ:柴田崇徳
カーボン・ナノチューブ: 飯島澄男
SiC: 松波弘之
HEMT: 三村高志
ZnO: 川崎雅司


(2) 座談会
  平成17年度は、実施しなかった。その代わりとして、(3)に述べる、毎週火曜日の財団スタッフのミーティングであるTTM(Takeda Tea Meeting)で外部の講師による講演を3回実施した。

(3) TTM
  財団スタッフの勉強会として、毎週1回火曜日に実施した。自分が関心をもったテーマについて調査したものを説明し、全員で討論を行った。財団の活動方針や、武田シンポジウムの企画についてもこのミーティングで討論した。添付資料の通り合計48回実施した。
  また、座談会に代るものとして外部講師を依頼したTTMを3回実施した。産総研の内藤耕氏の「ユビキタス社会」、江上氏の「高速通信」、リープル社会長内海孝雄氏の「Low Energy E-beam Proximity Projection Lithography」である。
  開催日、担当、タイトルは添付資料1のとおりである。

(4) 産業技術総合研究所からの委託調査
  産業技術総合研究所から、「先端技術の資源制約に関する調査」、「企業の持続的発展可能な社会実現への取り組みに関する事例調査」の2件の調査を委託され調査を実施し報告書を納入した。

4. 普及事業

(1) 武田シンポジウム
  武田計測先端知財団主催により2006年2月4日、東京大学武田先端知ビル武田ホールで「未来に何が見えるか −バーチャルリアリティの世界−」をテーマに武田シンポジウムを開催した。シンポジウムには、約250名の出席者があり、講演者の熱のこもった講演、討論に熱心に聞き入っていた。約250名の出席者のうち166名からアンケートを回収した。アンケートでは、武田シンポジウムは面白いという感想が多く見られた。

  本シンポジウムでは、科学技術の最先端を「見える」という切り口での講演を意図した。まず、東京大学大学院情報理工学系研究科の舘先生から「遠隔操作できるロボット」という演題で、人間の一部となる分身ロボットのお話をしていただいた。自分がその中にいるような感覚で操縦できる分身ロボットが動く未来社会では、医療、宇宙開発、深海探査などの現場だけでなく、日常生活でも使われるようになる可能性がある。

  次に東京大学医学部長の廣川信隆先生に「細胞内の分子1個1個の動きを見る」という演題で神経細胞の動きを可視化して見せるお話をしていただいた。体の中には、様々な物質を運ぶモータ分子というものがある。神経細胞の中では神経細胞の働きのもととなる物質を運んでおり、脳の働きにとって不可欠の要素となっている。また、このモータ分子は、体の臓器の左右の位置を決めることにも大きな働きをしている。

  3番目に、地球シミュレータセンター長の佐藤哲也先生から、「シミュレーションを通してみる未来の世界」という演題で、現在のコンピュータシミュレーションの可能性とそれがさらに目指しているところのお話をしていただいた。異なる階層のシミュレーションを連結した連結階層シミュレーションにより、例えば水滴が発生するというようなミクロな現象が地球全体の気象というようなマクロな現象の原因となるような現象をもシミュレーションすることができるようになるだろう。

  最後に、唐津理事が司会をして総合討論を行った。会場から活発な質疑があった。地震予知の可能性についての質問もあり、コンピュータシミュレーションで地震予知を行うには、地震のきっかけとなる地殻が動きだすメカニズムの解明が必要であるという回答があり、最先端のシミュレーション技術でできること、まだできないことの一端についても明らかになった。

(2) カフェ・デ・サイエンス
  今年度からの新しい試みとしてカフェ・デ・サイエンスを始めた。「普通の人たちが、専門用語で独特の概念について議論することになれてしまっている科学者と一緒に、日常的な言葉と具体的なイメージで科学を語り、それによって、科学の知識を得ようというのではなく、物事を科学的に考えるとは、どういうことなのかを体得する場とする。」ことを基本的な考え方とした。

  カフェ・デ・ザルチスト(東京都庭園美術館内)を会場とし、堀田凱樹さん(情報・システム研究機構長)と酒井邦嘉さん(東京大学大学院総合文化研究科助教授、第2回から)に講師をお願いし、財団プログラムオフィサーの三井さんがモデレータとなり、6回実施した。それぞれのテーマは以下の通りであった。

第1回テーマ「脳をつくる遺伝と環境」
第2回テーマ「脳はどのように言葉を生みだすか」
第3回テーマ「手話の脳科学 〜脳はどのように言葉を生み出すか〜」
第4回テーマ「双生児の脳科学 〜脳はどのように言葉を生み出すか〜」
第5回テーマ「脳とコンピューター」
第6回テーマ「脳が生みだす科学」


  毎回30人から40人の参加者があった。軽食やワインなどを楽しめるようにしたり、聾者の方や一卵性双生児の方をゲストに迎えるなど、参加者が自分の考えを話しやすいように心がけた。回を重ねるにつれて、参加者同士の討論も行われるようになり、科学を語る、考える会となった。無料情報誌として有名なR25にも取り上げられたり、新聞記事にも取り上げられるなど、財団の知名度向上にもつながった。この6回の内容をもとにした本が、堀田さんと酒井さんの共著の中公新書として、2006年9月頃に刊行される予定である。

  また、日本学術会議の呼びかけにより、2006年4月の科学技術週間に、全国各地でサイエンスカフェを行うことになった。その実行の責任部署の(財)科学技術広報財団 日本科学未来館運営局より、武田計測先端知財団にも協力依頼があった。地方で開催をして欲しいということであったので、2006年4月21日と22日に福井市で開催する予定で準備を進めた。経費は、(財)科学技術広報財団が負担する。講師は、斎藤 成也さん(国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門 教授)と佐々木 閑さん(花園大学文学部仏教学科教授)にお願いした。

(3) 広報・出版
  (3-1.) プロシーディングス出版
    2005年6月15日に、2005年武田シンポジウムの講演録、2004年調査事業及び普及事業概要を掲載した「2004年武田計測先端知財団プロシーディングス」を発行した。

  (3-2.) 財団ホームページ更新
    武田シンポジウム2006およびカフェ・デ・サイエンスの内容を掲載したホームページの更新を行った。

  (3-3.) 産業技術研究所からの受託調査をもとにした出版
    産業技術総合研究所から、平成16年度に受託した「デジタル家電技術の社会受容高度化に関する調査」、「ユビキタス社会を支える産業科学技術のインパクトに関する調査」に、産総研の内藤耕さんが全体の流れを書き加えたものを、「デジタル技術の衝撃」というタイトルの本として、工業調査会より2006年3月に出版した。

  (3-4.) アントレプレナー列伝企業編を集英社新書として出版することの決定
    平成15年度の調査事業として実施した「アントレプレナー列伝企業編」の出版については、集英社での編集作業をすすめ、2006年7月17日に垂井康夫・武田郁夫編の集英社新書として出版されることになった。


4. 事務局報告
▼評議員会・理事会関係
(1) 第18回理事会開催(2005年5月26日)
於:新阪急ホテル「すみれの間」
議案1)評議員の交代について承認を求める件
議案2)平成16年度事業報告(案)及び収支決算(案)について承認を求める件
議案3)バイオ先端知賞協賛について承認を求める件
(2) 第12回評議員会開催(2005年5月31日〜6月6日)
於:書面開催
議案1)平成16年度事業報告(案)及び収支決算(案)について承認を求める件
議案2)バイオ先端知賞協賛について承認を求める件
(3) 第19回理事会(2006年3月2日)
於:新阪急ホテル レストラン「モンスレー」
議案1)武田奨学賞の決定について
議案2)平成18年度事業計画および収支予算について
議案3)武田計測先端知財団の中期運営方針について
(4) 第13回評議員会(2006年3月6日〜13日)
於:書面開催
議案1)武田奨学賞の決定について
議案2)平成18年度事業計画および収支予算について
議案3)武田計測先端知財団の中期運営方針について

▼労務関連
安全衛生
1) 成人病検診実施 受診機関:中央みなとクリニック
2) 防火管理者の交代
これまで防火管理者だった安部が退職したため、防火管理者を赤城に交代した。

▼経理関連
内部監査
1) 期中監査実施(2005年12月22日・2006年1月26日・3月29日)
新日本監査法人:長公認会計士・中村公認会計士・西山会計士補・西川会計士補
財団立会者:赤城・高見



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