The Takeda Foundation
年度計画・報告

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平成16年度事業報告書
(平成16年4月1日〜平成17年3月31日)

1. 顕彰事業
  生活者の富と豊かさ・幸福をもたらした業績を顕彰するグローバルな賞としての武田賞(情報・電子系、生命系、環境系の3分野、副賞1分野1億円)については、財政的な問題から当分の間中止することにした。武田賞に代わる顕彰事業について種々模索した結果、日本のバイオベンチャーを応援する他団体主催の顕彰事業に参画することを検討している。

2. 助成事業
  若手優秀研究者2名に武田奨学賞として奨学金を支給した。(平成16年度の新規募集は行わなかった。)

3. 調査事業
(1) 事例調査
  情報・電子系分野で実際に起業し、生活者に富と豊かさ・幸福をもたらしたアントレプレナーについてインタビューを含めた調査を行い、「アントレプレナー列伝企業編」としてまとめた。本アントレプレナー列伝では、武田賞選考とは異なり、選択を容易にするため範囲を絞って(アントレプレナー精神にまで拡大しないで狭義のアントレプレナーであるかどうかで)候補者を選択した。すなわち、最初に技術的なものを含むアイデアを持っていて、企業化し相当な収益を得たことを選択基準とした。企業化の重要な時点では企業に在籍しその後大学などに転出した場合もこの基準には含まれるものとした。読み物としても興味をもたれるような書き方を目指した。調査対象は、以下の各氏である。

中村修二(青色発光ダイオード・半導体レーザの実用化)、
久夛良木健(プレイステーション市場の創出)
飯島朝雄(新しい電子回路基板技術の開発により(株)ノースの上場を実現)
飯塚哲哉(東芝を飛び出し、液晶ドライバで世界を席捲)
杉山尚志(NEC技術部長の職をなげうって独立、画像処理ICを武器に4年で上場)
舛岡富士雄(独自技術へのこだわりとユーザー指向が生み出したフラッシュメモリ)
進藤晶弘(半導体ファブレス・ベンチャーの先駆けとして(株)メガチップスを創業し、上場を果たす)
篠田傳(カラープラズマディスプレーを実現したアントレプレナー)
高須賀宣(日本生まれのオフィスソフトウェアを成功させた男)
荒川亨(情報家電の基本ソフトで世界と勝負)

本アントレプレナー列伝企業編は、集英社より集英社新書として、刊行を予定しており、集英社編集長の追加インタビューも行っている。引き続き、「アントレプレナー列伝中立機関編」として、公的研究機関や大学におけるアントレプレナーについての調査を開始した。大学で活躍されている、日本を代表するアントレプレナー精神にあふれた人々約10名を選び出し、それぞれの事例調査を行い、技術者や研究者がどう技術を磨き発展させ、それを新しいコンセプトや製品の構想につないだのか、事業化をどのように成功させ生活者の豊かさを実現させたかを明らかにする。平成17年度内に出版を予定している。対象者は以下の通りである。

坂村 健(東京大学大学院情報学環教授、コンピューターアーキテクトから情報化社会のアーキテクトへ)
赤ア 勇(名城大学理工学部教授、窒化ガリウム青色発光デバイスの開発―フロンティア・エレクトロニクスへの挑戦―)
天野 浩(名城大学理工学部教授、窒化ガリウム青色発光デバイスの開発における情熱、苦闘そして克服)
大見忠弘(東北大学未来情報産業研究館館長、ウルトラクリーンテクノロジーの創設)
城戸淳二(山形大学大学院教授、有機ELの光で、日本を照らしたい)
伊賀健一(日本学術振興会理事、横を縦に、常識を覆した面発光レーザの開発)
泉 勝俊(大阪府立大学先端科学研究所教授、"Anything new?"という問いかけに応えて、夢を実現したSIMOX基板の開発)
江刺正喜(東北大学未来科学技術共同研究センター教授、MEMS(マイクロマシニング)に魅せられた、夢多き信念の人)
藤嶋 昭(神奈川科学技術アカデミー理事長、酸化チタンの光触媒で世界をクリーンに)
金出武雄(米国カーネギーメロン大学教授、死角のない映像で現実世界を表現する仮想化現実技術の実用化)


(2) 座談会
  平成16年7月20日、東京新阪急ホテル明石で、産業技術総合研究所請川孝治理事による座談会「エネルギー開発の考え方」を開催した。座談会には、財団評議員の山崎弘郎先生、選考委員の内海英雄先生、田中隆治氏、垂井常任理事、松原常任理事、唐津理事、西村理事等、約20名が参加し、講演者の請川氏との間で熱心な質疑応答が行われた。請川氏は、エネルギー研究開発は国の政策的な影響が大きいこと、国のエネルギー開発は「なければ困る」技術を対象とし、「あれば便利な技術」は民間に任せていること、エネルギー開発では環境保護が最も重要な因子になること、今後は、ローカルな地域でのコジェネレーションが重要な課題になること等を熱心に解説された。座談会講演録は財団ホームページに掲載中。

4. 普及事業

(1) 武田シンポジウム
  武田計測先端知財団主催、毎日新聞社、日経バイオテク、日経バイオビジネス後援により平成17年2月5日、東京大学武田先端知ビル武田ホールで「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」をテーマに武田シンポジウムを開催した。シンポジウムには、会場を埋め尽くす(約350名)出席者があり、講演者の熱のこもった講演、討論に熱心に聞き入っていた。約350名の出席者のうち200名からアンケートを回収した。アンケートでは、武田シンポジウムは面白いという感想が数多く見られた。

  本シンポジウムは、一部「日本のバイオテクノロジー」と二部のパネル討論による二部構成で実施した。シンポジウム一部では、DNAチップ研究所社長松原謙一先生が「バイオテクノロジーとは何か」というタイトルで、1869年から始まるバイオテクノロジーの歴史と技術の生活者へのインパクトについて解説し、サントリー株式会社生産技術応用研究所長田中隆治氏が「サントリーは、なぜバイオテクノロジーに取り組むのか」というタイトルで、サントリーの製品開発を支えるバイオテクノロジーと、酒類醸造から健康食品、青いバラを貫く共通の物質としてのポリフェノールについて紹介した。同じく一部で、トヨタ自動車株式会社バイオ・緑化事業部長の築島幸三郎氏は、トヨタが取り組むバイオ・緑化事業が、自動車事業の次の未来事業であると共に中国のモータリゼーション隆盛から生じる自動車関連廃棄物対策やエネルギー対策としての意味合いがあることを紹介した。

  二部のパネル討論では、日本学術会議会長の黒川清先生が、基調講演で「技術は中立的なものである。バイオテクノロジーという道具を使って、どういう社会をつくるかが重要」という問題提起を行った。これを受けたパネル討論では、放送大学教授の鈴木基之先生が、「現在の富ではなく将来の子孫にどういう地球を残すのか」という持続可能性の視点から議論を展開し、松原先生も「自分の欲望から出発して物を考えるのは、そろそろ止めるべきではないか。次の世代に何を残すのかということを発想の原点にすべきではないか」と強調した。最後に、モデレーターの日経BP社先端技術情報センター長の宮田満氏が、「古い言葉ではあるが、足るを知るということを今一度考えに入れるべきではないか」と締めくくった。

(2) 広報・出版
@出版
  平成16年12月15日、液晶、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)、DNAチップ、リナックスの事例調査結果を、「MOT事例調査 注目先端技術 成功の理由」というタイトルで工業調査会より出版した。(芝浦工業大学教授児玉文雄氏より書評を書いていただいた。別添資料)

  平成16年5月12日、2002年武田賞フォーラムの講演録、2002年武田研究奨励賞の結果、2003年調査事業及び普及事業概要を掲載した「2003年武田計測先端知財団プロシーディングス」を発行した。


A財団ホームページ更新
  2004年武田シンポジウムおよび座談会(産業技術総合研究所請川孝治理事)の講演結果等を掲載したホームページの更新を行った。

4. 事務局報告
▼評議員会・理事会・幹部会関係
(1) 幹部会(平成16年5月28日)
於:財団会議室
議案1)事務局長の委嘱について承認を求める件
議案2)平成15年(2003年)度事業報告(案)及び収支決算(案)について
(2) 第13回理事会開催(平成16年6月1日〜6月11日)
第10回評議員会開催(平成16年6月16日〜6月30日)
於:書面開催
議案1)事務局長の委嘱について承認を求める件
議案2)平成15年(2003年)度事業報告(案)及び収支決算(案)について
報告・討議事項 武田賞について
(3) 第14回理事会開催(平成16年9月27日)
於:東京新阪急ホテル 明石「すみれの間」
議案1)今後の財団活動について(財団活動を財団理念に基づく調査普及事業を中心とする活動に切り替えること)について承認を求める件
(この議案については、議案としての審議は行わず検討事項として討論のみを行った。)
議案2)基本財産の一部処分について(基本財産のうち、1億円を取り崩して運営資金に当てるために経済産業大臣の承認を求める件)について承認を求める件
(この議案については、議案としての審議は行わず検討事項として討論のみを行った。)
議案3)退職金の改定について(平成17年3月末日を持って退職金制度を廃止する件)について承認を求める件
(4) 第15回理事会開催(平成16年10月14日〜22)
於:書面開催
議案1)評議員の交代について承認を求める件
・吉野武彦氏(旧)から橋本元一氏(新)への交代
(事由:日本放送協会(NHK)内の人事異動のため)
(5) 第16回理事会開催(平成17年3月7日)
於:東京新阪急ホテル32階 明石「すみれの間」
議案 1)平成16年度収支予算修正(案)の承認を求める件
議案 2)平成17年度事業計画及び収支予算(案)の承認を求める件
議案 3)顕彰事業と助成事業における選考方法の承認を求める件
(6) 第11回評議員会開催(平成17年3月11日〜3月18日)
於:書面開催
議案 1)平成16年度収支予算修正(案)の承認を求める件
議案 2)平成17年度事業計画及び収支予算(案)の承認を求める件
議案 3)顕彰事業と助成事業における選考方法の承認を求める件
議案 4)役員の選任に関する件
(7) 第17回理事会開催(平成17年3月22日〜3月28日)
於:書面開催
議案 1)第3期評議員の選任を求める件
議案 2)理事長、専務理事、常任理事の選任を求める件

▼労務関連
(8) 安全衛生
1) 総合防災訓練実施
(平成16年5月24日、平成16年11月8日)
於:聖路加タワー全体 協力実施機関:京橋消防署
訓練内容:@防火管理者を中心にした自衛消防組織の編成
      A避難階段を使用しての避難訓練と煙体験ハウス訓練
2) 成人病検診実施 受診機関:中央みなとクリニック
3) 京橋消防署の立入検査(平成16年7月16日)
・防火管理維持台帳及び防災組織図設置確認
・職員への聞き取り調査など
    応対者:自衛消防隊長、防火管理者 2名
4) 「防火対象物点検報告特例認定制度の申請」
      認定日:平成16年10月29日

▼経理関連
(9) 内部監査・税務署への確認事項
〔内部監査〕
1) 期中監査実施(平成16年12月21日・平成16年3月11日)
新日本監査法人:花田代表・和田公認会計士・中村公認会計士・篠原会計士補4名
財団立会者:赤城専務理事・安部 2名
 
〔国税への確認事項〕(平成16年1月12日)
2) 京橋税務署・法人課 第4部門
  「退職金規定変更に伴う退職金支給に関してのお伺い」
相談内容:平成17年度3月31日時点の過去勤務債務精算の退職金としての取扱いについて
京橋税務署:笹原税務署職員 1名
財団側:吉元公認会計士・大戸理事・安部 3名

▼総務関連
(10) 東急ハーヴェストクラブ会員権(旧軽井沢)の転売実施。
財団職員の福利厚生施設として平成13年8月に契約を締結した東急ハーヴェストクラブ会員権(旧軽井沢)を平成17年2月に購入価格より上値にて転売の契約を締結。
転売事由:職員数の減少に伴う利用対象者の減少と財団資金の確保のため。
 
(11) 外部主催講習会等の参加実績
1) 助成財団センター主催 報告会、研修会参加
2) 中央青山監査法人主催 公益法人実務勉強会参加 2回
公益法人会計の会計実務と新会計基準について」
3) 公益法人協会主催
「やさしい公益法人会計」1回




添付資料 書評
<MOT事例研究>注目先端技術 成功の理由


  本書は、タイトルに「MOT(技術経営)事例研究」と付されているように、4つの注目先端技術(液晶ディプレイ、薄膜SOI、DNAチップ、Linux)の商用化プロセスを追跡しながら、それらが成功に導かれた理由を詳細に分析している。元はと言えば、武田計測先端知財団が産業技術総合研究所から委託された調査研究の成果だが、それぞれの執筆者が直接ないし間接的に当該テーマに関わり合った人たちだけに、記述は正鵠を射、説得力に富んでいる。
  この種の本がともすれば「プロジェクトX」的な記述に陥りがちなのに対し、本書が異質な成書になっているのは、当然と言えば当然だがMOT的な分析や評価が随所に散りばめられているからだ。4つの事例の共通点として「いわゆるリニア・モデルが成立していない」という仮説を取り上げている。「研究成果が先にあって、その研究成果の応用としての開発という順序にはなっていない」というのがその理由だが、背景に科学と技術の接近・融合化現象があることは自明である。逆説的な見方をすれば、リニア・モデルが成立していないから成功に導かれたのであろう。
  本書の一部項目では、成功の要因を内的要因(オープンで活気に満ちた環境、斬新なアイデア、キーパーソンの存在など)と外的要因(研究資金の提供、地の利など)に分けて捉え、読者の理解に役立てている。こうした手法を全項目に適用し、序章などで何らかのレビューがあれば、MOTとしてはもっと参考になったに違いない。
  一方、筆者らは本書はMOTの教科書となることが狙いであると主張しているが、評者には、公共政策としての重要な知見が書かれているように思われる。本書には「死の谷」問題が随所に登場するが、実は研究開発の非リニア・モデル化がこの問題を解消する有力手段になっているのである。特に、DNAチップの開発が、「死の谷」に落ち込んだ時に、政府のヒトゲノムプロジェクトが、研究資金の提供と市場の提供(プロジェクトにおける大量解析手法の必要性)の両方において、死の谷を超えるのに有効であったという指摘は、学問的に厳密な実証研究は必要であるが、非常に興味深い指摘である。
  従って、技術力と経営力がちぐはぐな日本企業の関係者のみならず、政府の科学技術政策立案者に一読を勧めたい、注目の書である。


評者:児玉文雄
芝浦工業大学専門職大学院・工学マネジメント研究科 研究科長・教授
独立行政法人・経済産業研究所・ファカルティ・フェロー
工学博士・東京大学名誉教授


Last modified 2005.10.18   Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.