今日、工学知の中でも、先端的な計測は極めて重要な役割を果たしている。たとえば、脳科学の研究者、医療関係者は、生体の脳神経細胞を無侵襲で観測することを欲している。分子生物学の研究者も、バイオテクノロジーを活用して創薬、遺伝子組み換え、生物資源を生成しようとする医工学開発者・バイオ技術者も、セラミックやケイ素系、炭素系新素材などの新素材開発者も、そのプロセス能力の開発とともに、計測能力の壁を破るために多大な努力をしている。また環境系の分野においても、計測能力の革新への取り組みが大規模に行われている。
突破口的計測ニーズは研究開発シーズそのものの中にある。被測定対象に対する深い理解なしには計測能力の壁を破ることはできない。同時に、測定しようとすることによって工学知も科学知も呼び寄せられる。遺伝子自動解読装置や超LSI試験装置の基本アイデアは、分子生物学や半導体デバイスの専門家から出されたものである。一方、計測ニーズが計測の壁を破り、新しい実用計測技術として利用されるには、物理、化学、電子工学、情報技術、精密H学、生物学をはじめ、被測定対象とかけはなれた領域の、最先端の工学的・科学的知識を活用しなければならない。とりわけ物質世界の計測アイデアと一体となった情報処理技術、すなわちテクノインフォマティックスの世界に、実世界の科学知・工学知を知識としてマッピングすることが必要になる。 |