4.Linuxプロジェクト
概要
     Linus Torvaldsは、 1991年にLinuxの最初のバージョンを独自に作成し、インターネット上に公開した。Linuxは、UNIX互換性を備えたコンピュータOSの中核部分(カーネル)である。その後、デバッグおよび改良が世界的な広がりによるボランティアで実行された。また、得られた改良版のOSカーネルを誰でも自由にかつ無料で利用することができるようにした。 このLinux開発における特徴は、公開されたソースコードの改良・デバッグに多数のボランティアがいつでも自由に直接参加する開発スタイルの創案と実践である。改良案の採用やバージョンアップの最終判断はTorvalds自身が行うことによって、変種を生みださず、統一した形でOSカーネルの改良を進めることができた。また、ボランティアの行ったデバッグ作業やプログラム改良結果がすぐに公開されるよう、頻繁にバージョンアップを繰返して、多くのボランティアの意欲的な努力を効果的にまとめあげた。 このように、オープンな形でのコンピュータソフトウェア開発方式を採用することにより、多くの自主的で熱意ある作業がスピーディーに行われ、高性能で高い信頼性を有するOSカーネルが生みだされた。

Linuxの開発経過
   Linuxは1991年9月に最初のバージョンである0.01がリリースされた。その後、1994年にリリースされたバージョン1.00によってカーネルが完成し、1996年のバージョン2.0で、実用的なOSとなった (18)。
   Torvaldsが、Linuxの開発の中心的な役割をはたしている。全世界にいるボランティアの開発者が、みずからの意思でみずからの必要性にしたがって必要な部分を開発し、Torvaldsが彼の支援者の協力により、ボランティアが開発したコードを採用するかどうか決定している。その機能の必要性を感じたボランティアが、自分の要求を満たすために開発するので、短い工期で品質の良いものができるという特徴がある。
   また、Linuxの仕様そのものは、UNIXの標準仕様POSIXに基づいておりUNIXクローンであるが、ソースコードは独自のものであり、誰でも自由にソースコードを手に入れることができる。
Linuxの各バージョンのリリース経過は次の通りである(19)(20)。
  1991年 Torvaldsが開発を開始、バージョン0.01カーネルをリリース
  1994年 1.00カーネルをリリース
  1996年 2.0(安定版)、2.1.0(開発版)をリリース
  1999年 2.2.0(安定版)、2.3.0(開発版)をリリース
  2001年 2.4.0(安定版)をリリース
     バージョン0.01から1.00までは、2年5ヶ月間に119回のバージョンアップが行われ、1.00から2.0までは、2年3ヶ月間に234回行われた。また、2.0から2.1.0までは4ヶ月間に21回、2.1.0から2.2.0までは2年4ヶ月間に142回、2.2.0から2.3.0までは4ヶ月間に9回、2.3.0から2.4.0までは1年8ヶ月間に74回のバージョンアップが行われている。頻繁にバージョンアップされた時期(特に1994年から1996年)においては1ヶ月間に10回以上の改訂が行われている。

Linuxのディストリビューションの特徴
   Linuxは、OSのソースコードに加えて、インストールを簡易化するソフトウェア、ネットワークサポート、ユーティリティプログラムなどのソフトを組合わせて、ユーザが使いやすい形にパッケージ化して配布することをディストリビューションと呼ぶ。ボランティアベースの無料ディストリビューションもあるし、ビジネスとして料金を取って販売している会社もある。このディストリビューションという仕組みは、Linuxのソースコードの統一性を損なわずに、したがって互換性を損なわずに、Linuxを普及させる仕組みである。
   LinuxのもととなったUNIXの場合は、ソースコードは有償でAT&Tから公開されていた。カリフォルニア大学バークレー校で開発したBSDのコードは、そのライセンスを持っていれば入手できた。また、多くのシェルやユーティリティが大学などで開発され、そのソースコードは公開されていた。それらのソースコードをそれぞれの状況に応じて書換えて、それぞれのベンダが製品化を行った。
    UNIXにおける標準化の努力は、ソースコードそのものを統一するのではなく、POSIXのような標準仕様を決めて行おうとした。カーネルのソースコードはそれぞれのベンダにまかされた。したがってそれぞれのベンダによってソースコードが異なり、細かな仕様も異なるようになってしまった。そのため、同じUNIX系のOSでも互換性は保証されなかった。また、ベンダのソースコードは公開されていないため、アプリケーションプログラムを動かしてトラブルが発生しても、OSカーネルの細かな仕様の違いによるものなのか、アプリケーションの障害なのか、あるいは、OS自身の障害に起因するものなのかを特定することは、OSベンダの協力がなければ不可能であった。
   これに比較して、Linuxでは、どのディストリビューションでも統一されたLinuxカーネルを使っているので、互換性は保たれている。ソースコードが公開されているので、サポートもやり易いという利点がある。また、Linuxのライセンス料は無償である。特に、多数の端末を使う場合や、組込み用のOSとする場合はOSのライセンス料は台数分だけ必要となり、これが無償であることは大きな利点となる。

LinuxおよびGNUソフトウェアの利用状況
   Linuxは、当初スタンドアローンのデスクトップコンピュータ用OSだったがマルチプロセッサもサポートされ、スーパーコンピュータ用OS、大規模システム用OS、ネット端末用OS、携帯端末用OS、組込み用OSとしての用途にも広がっている。必要性を感じた人が必要とする部分の拡張を行い、ソースコードが公開されるので、他の人も利用できることになる。
   Linuxのシェアは、1999年の全世界サーバOSの出荷本数シェアにおいては25%(130万本)、2000年における日本のサーバOSの出荷本数シェアにおいては7.8%を占めており、安定性のある有力なサーバ用OSとなった。OSそのものは無償で出荷されているため、金額に換算することは難しいが、非常に大きな市場を作り出したことは確かである。
   GNU及びLinuxは、その性能及び信頼性の高さとシステム開発に必要なコストの低さの故に、サーバを始め一般的な用途のコンピュータシステムで広く使われ始め、最近では、主要なコンピュータメーカがすべてのコンピュータでLinuxを搭載可能とした。さらに、2001年5月には、IBM、富士通、日立、NECが、銀行の勘定系など企業の基幹業務システム用OSについてLinuxをベースとして共同開発することで合意した。Linuxの特徴である低価格、システム安定性、高いネットワーク機能、システム互換性に加えて、4社が協力することで開発コストの削減と開発期間の短縮が可能になるとしている。
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