理 念 Philosophy
豊かさと幸せの花を咲かせるのは誰か、その発見に向けて見る夢
理事長 武田郁夫
2004年3月31日
1. お詫びと今後への決意
2003年度、本財団の活動において、私は重大な決断をしなければなりませんでした。武田賞と武田研究奨励賞を事業半ばに休止するという苦渋の決断です。まずはじめに、この場を借りて、2003年度の武田賞と武田研究奨励賞の準備、選考、応募を通して関係のございました各位に、ご迷惑をお掛けしましたことをお詫びします。
現時点においては、少し回復の兆しの見えている日本経済、国際経済ですが、2003事業年度開始早々、経済市況の思わぬ下落があり、その影響は避けられず、我々は休止の道を選んで、時機を待ったほうがよいとの幹部会の決定を受け、顕彰事業を延期することになりました。しかし、全ての責任は理事長たる私自身にあるわけであり、とても申し訳なく思っております。
しかしながら、これまでに努力した甲斐があり、このような状況の中でも多くの励ましと支持を頂いております。我々の基本理念である「生活者が選択する豊かさ、そのために邁進するアントレプレナーを発揮する人を発見して報告する」こと、そのメッセージを発信することについて、これまでと同様に全力で調査活動や普及活動を行っています。
2. 多様な豊かさと幸せの花を咲かせる努力をしている人を発見したい
日本は、1931年9月18日、柳条湖の鉄道爆破事件を契機とし、中国東北侵略戦争を引き起こしました。翌1932年には、満州国を樹立させました。日本の野心は、植民地を持つ先進国列強に負けない経済力をつけんがために、支那事変を引き起こし、中国を植民地化しようとしたのです。しかし、結果はどうでしょう。当時の後進資本主義国である日、独、伊三国に対して、米、英、仏、ソなど連合国との間に全世界規模の第二次世界大戦が巻き起こることとなりました。1945年5月、英、米、ソ軍のベルリン占領によってドイツは降伏し、8月には原爆投下とソ連の参戦による日本の降伏という経過を辿って戦争はようやく終結しました。皮肉にも日本の最初の野望は、はかなく散りゆき、結果的には自国の極貧の経済を招きました。
それでも日本は、昭和40年(1965)以降、世界第二位の経済大国に向かって自助努力で進みました。この日本の失敗(戦争)と成功(経済再生)の体験は、世界の後進国の人々に自助努力すれば、先進国経済入りすることへの自信を与えたと私は思います。現在、世界には人口の多い大国として、中国、インド、ブラジルがあるし、アジア地域でもベトナム、タイは安定成長を続けています。この二国の経済は、驚くことに中国と同様9%以上の成長を続けています。将来100年以内に、アメリカ経済を追い越し、世界ナンバーワンの経済圏がこの地球上にできるようなことが起こる可能性は、誰も否定できません。
3. 21世紀は数多くの「知」のコラボレーションの時代
ノーベル賞に始まる人類の生み出した「知」の尊厳性に対して顕彰することは、今や世界の数多くの財団によって、なされています。画期的な基礎科学の発見と発明、そして、絶大な波及効果を持つ応用技術の基本的発明、という2種類の新しい「知」に対する顕彰活動が行われています。しかし、21世紀に入って時代は変わり、従来なら顕彰に値しないと思われるような小さな「知」をも、現在ではアントレプレナーたちが、大切に、しかも一つだけでないいくつもの新しい「知」と昔からあった「知」とをコラボレーションさせて、人類の大きな豊かさと幸せを次々と創出しています。また、創出せんと日々奮闘しています。彼らは、全地球上の多種多様な生活者の欲求を満たすための新たな貢献に向かって行動しているのです。このような世界こそ「知」によってもたらされる人類の豊穣な宝(お金では買えない宝)を生活者たちが市場から選択できるということが、21世紀の姿だと思います。
こうして今、世界中から湧き上がってくる生活者の豊かさの止むことのない大いなる追求が、誰によって、つまり、どんなアントレプレナーによって、どう実現されていくのでしょうか。これを地球上の63億人と言われる生活者とともに見定め、見極め、探し出したい。これが、私がこの財団にかける大きな夢です。他人の所有する富を戦争のような武力で奪うことは愚かな人間の行為です。真の人間の行為とは、人々が豊かさと幸せを感ずるために一生を尽くすことであり、それでこそ人間らしい生き方だと思っています。